劇ナビFUKUOKA(福岡)

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演戯集団ばぁくうのラスト読演

 2023年4月20日、演戯集団ばぁくうによる「読演」が最終公演を終えた。2010年4月から13年に亘って、なんと143回も演ってきたという。


佐藤順一氏

 聞きなれない「読演」という言葉だが、簡単に言えば短編小説を読み演じるというものだ。劇団主宰の佐藤順一いわく、


気になる作家や好きな作家の小説から得た惧れやらを、「話す」という行動で、舞台上に再現する。登場する人物一人ひとりを、そこに存在させ、その時代を、そこに籠められた作家の情熱や思想を、演じての技量で身近に感じて貰う。そのために演じ手は探求・研鑽・稽古を続ける。…それが、読演です。                           


 立ち動かない一人芝居…とでも言えばわかるだろうか。これを、佐藤は毎月10日と20日の月二回、六本松のアトリエ戯座にて上演してきた。


アトリエ戯座の様子 観客は思い思いの席につく

 


 最終公演は、太宰治の『佐渡』と、特別にもう一篇やってくれた。実は『佐渡』はその10日前にもやってくれたのだが、同じ演目なのに雰囲気が全く違う。前回はうら寂しい佐渡の空気が太宰の退屈と共に伝わってくる印象だったが、今回は面白いことに太宰のうじうじした(?)独白がユーモラスに感じられ、太宰の人間臭さが伝わってきた。同じ人間が演じてもこうも違って感じるものなのか。


 個人的にはもう一篇の方が好み。ドイツの作家ハインリヒ・ベルの『黒羊』だ。――「ぼく」は黒羊、グループの中の異端者だ。ぼくの名付け親の叔父さんもまた黒羊で、この異質な存在というのは、必要な存在なのだ、誰かがなるべき存在なのだ――といった内容の示唆に富んだ物語で、これをどう読むかは読者(観客)にゆだねられる。初めて知った作家だったのだが、新しい作家に出会えるのも「読演」の楽しみの一つだったと今さらながらに思い知った。


 最終公演は客席のソファがすべて埋まる大盛況。佐藤順一はいつものように現れて(ちょっとお洒落していたけれど)いつものように演じ終わった(ちょっと思いのたけを語ったけど)。

 物事は、すべていつかは終わるもの。地方都市・福岡で、長きに亘る小さな試みが幕を下ろした。終わってみて初めて、贅沢な時間だったのだと気がつく。

2023.04.30

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柴山麻妃

●月に一度、舞台芸術に関係するアレコレを書いていきまーす●

大学院時代から(ブラジル滞在の1年の休刊をはさみ)10年間、演劇批評雑誌New Theatre Reviewを刊行。
2005年~朝日新聞に劇評を執筆
2019年~毎日新聞に「舞台芸術と社会の関わり」についての論考を執筆

舞台、映画、読書をこよなく愛しております。
演劇の楽しさを広げたいと、観劇後にお茶しながら感想を話す「シアターカフェ」も不定期で開催中。
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