劇ナビFUKUOKA(福岡)

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『NDT1  Japan Tour 2024』Nederlands Dans Theater

2024年7月13日(土)14:00~ @愛知県芸術劇場

NDT1 Japan Tour 2024

出演:Alexander Andison, Fay van Baar, Anna Bekirova, Jon Bond, Thalia Crymble, Matthew Foley, Scott Fowler, Surimu Fukushi, Barry Gans, Conner Bormann, Pamela Campos, Emmitt Cawley, Aram Hasler, Nicole Ishimaru, Chuck Jones, Madoka Kariya, Genevieve O’Keeffe, Paxton Ricketts, Kele Roberson, Charlie Skuy, Yukino Takaura, Luca-Andrea Lino Tessarini, Theophilus Vesely, Nicole Ward, Sophie Whittome, Rui-Ting Yu, Zenon Zubyk





 NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)が5年ぶりに来日するという。世界中の選りすぐりのダンサーが集まっているこのカンパニーの作品が見られるとあって、ダンスに疎い私も一度は拝んでおきたいと名古屋まで出かけた。そして…結論から言えば、行ってよかった。徹底したクラシックバレエのテクニックを身に付けたダンサーによる、振り幅の大きな異なる3本の前衛的なダンス。拙い言葉だが、「ダンスって面白い…!」と思った。ダンスって、ダンスって…なんて豊かなんだろう!


『La Ruta』(by Gabriela Carrizo)


 まるで一本の映画を見ているかのような作品である。こんな作品もアリなのかと驚く。

 真夜中のバス停。日本語の話し声が聞こえ、やがて消えていき…暗闇、白々とした灯り、車のライト。悪夢を見せられているのだろうか? 車に轢かれて倒れ死にゆく女、その身体を引きずっていく男、狂っていく身体、ぐにゃりとありえない動きをする屍人、サムライ、馬をかぶった男…、狂った世界に閉じ込められているような感覚を覚える。

La Rutaとは道のこと。深夜の人気のない道路の怖さを思いだす。同時にそんな場所で人が現れた時の、異なる怖さも思いだす。そして見ている自分の身体が、恐怖なのか驚きなのか、時々ビクリと反応することに気づく。不気味な空気が私にも纏わりついているような気にもなる。同時にこの空気にワクワクとしている自分もいるから、感覚ってやっかいだ。

 「これもアリなのか」と驚いた理由は、きっと、テクニックを「見せつけない」ダンスだったからだろう。けれどどのシーンを切り取ってもおそらく絵になるのは(そう、怖いのだがとても美しいと思ったのだ)、それこそダンサーたちの動きにムダが無いからかもしれない。


『Solo Echo』(by Crystal  Pite)


 美しくて息をのんだ。ブラームスの音楽の中で少しずつ変容する彫刻のようなダンス。これは人生を表わしているのかと思ったのは、ラストの降りしきる雪を見て。黒い背景に横一列に切り取られた窓があり、そこから雪なのか桜なのか白いものが舞っているのが見える。人生の終わりだと思ったのは「散る」というイメージのせいだろうか。


『One Flat Thing, reproduced』(by William Forsyth)


 一転してカラフルな衣裳に身を包んだダンサーたちが長テーブルをズイイイと押して並べて始まる。舞台上には規則的に並んだ20台のテーブル。いや、踊りにくいよね⁉ 狭いよね⁉ 動きが制御されるよね⁉ とギョッとする中でダンサーたちが二人ずつ、あるいは三人ずつのアンサンブルで(その組み合わせも変えながら)、テーブルの上や間を使って踊っていく。私が面白かったのは、いわゆるコンテンポラリーダンスでよくある「全体的な」調和とズレが一切なかったこと。それらはすべて「個別的」に組み合わさっていて、全体で見ると不規則で複雑。あちらこちらでいくつもの「調和とズレ」が生み出されているように見える。互いのキューの出し方(顔や目を合わせたり、カウントだったり)も異なっているし、観客が無意識に用意している予定調和を軽く飛び越えていく。これは…観ているよりかなり高度なことなんじゃなかろうか。しかも障害物(テーブル)のせいで動きを細かく計算しなければならないし、さらにこの環境ではかなり鍛えていないと踊れない。

 それなのに、受ける印象はどこまでも軽やか。衣装がカラフルなことも手伝って、楽しそうなんだよなぁ。「あした衣装の色が変わったら(例えば今日は黄色のTシャツ、明日は赤とか)やることも変わるのかな、雰囲気ちがうよね」なんて考えるほどに明るくて楽しげ。ストイックに美しく見せてくれるダンスも惹かれるけれど、表情からしてキラキラ輝いているこんな感じのダンスもいいなぁ。全体の一部ではなく「自分たちが」踊っている、という気持ちなのかな。・・・そんなことも考えたりして。


 それにしても、振付家がちがうとはいえ全く異なるタイプの3本のダンスで、幅の広さに感服。これは「高度な技術」「前衛的な作品づくり」というNDTの特徴でもあるだろうが、私にはダンスの豊かさの表れのような気がする。そうしてダンスの深淵に触れて圧倒された私はやっぱりつぶやいてしまうのだ。「ダンスって、面白い…!」と。

2024.08.03

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柴山麻妃

●月に一度、舞台芸術に関係するアレコレを書いていきまーす●

大学院時代から(ブラジル滞在の1年の休刊をはさみ)10年間、演劇批評雑誌New Theatre Reviewを刊行。
2005年~朝日新聞に劇評を執筆
2019年~毎日新聞に「舞台芸術と社会の関わり」についての論考を執筆

舞台、映画、読書をこよなく愛しております。
演劇の楽しさを広げたいと、観劇後にお茶しながら感想を話す「シアターカフェ」も不定期で開催中。
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