劇ナビFUKUOKA(福岡)

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『春と修羅』prima materia vol.15

 2023年6月18日(日)18;00 @箱崎水族館喫茶室 


●プリマ・マテリア vol.15 「春と修羅」

おどり: 峰尾かおり

声とことば: いしだま

       (はみだす朗読ユニットテクテクハニカム)

即興音奏: prima materia(プリマ・マテリア)
       花田コウキ + 渡辺ハンキン浩二

照明:出田浩志(大屋屋)


 言葉と彼女と内なる声が、シンクロしている気がした。宮沢賢治の言葉の断片と、峰尾かおりの存在と、私の奥から聞こえる声の、シンクロである。

 ――「わたくしといふ現象は」――風や光や水や時や、それらと同じ森羅万象の現象としての私が

 ――「せはしくせはしく明滅しながら」――たゆたい、まざりあい、ゆっくりと呼吸をしながら

 ――「一つの青い照明です」――ひっそりと、あるいはほんのりと、存在している、ような。


 プリマ・マテリアvol.15の『春と修羅』である。宮沢賢治の詩の朗読(いしだま・はみだす朗読ユニットテクテクハニカム)と、ギターとドラムの即興の音(prima materia=花田コウキ+渡辺ハンキン浩二)と、その中での精気に満ちたおどり(峰尾かおり)。濃密な空間と時間に溶け込むような錯覚を覚える公演だった。


 峰尾は、彼女の『春と修羅』を(つまりは彼女が理解した宮沢賢治の詩を)饒舌におどりで体現する。冒頭のかなり長い時間の緩慢な動きは「空間と時間との一体化」であり、森羅万象の一部であることを表わしている。それがステージに上がる頃には、人が持つ心の動き(例えば喜怒哀楽といった単純なものに分類できない多くの心の機微)ですらもこの世の自然だと体で詠う。豊かにたっぷりと、おどりが「語って」いる。そしてprima materiaの即興音奏は、存在感ある演奏でありながら同時に峰尾のおどりを後押しするサポート感もあり、バランスがよく感じられる。心地よい。


 私にとって残念だったのは、朗読の強さだ。いしだまの声が特徴的であるからだろうか、彼女が声高に叫んだり、声色を使ったり、その激しさが耳障りに感じた。朗読の強弱に意味があったようには感じられず、却って邪魔をしているとすら思えた。ただ、面白くなったのは後半、彼女の朗読の声が「音」になってから。朗読としての意識が消え、言葉が音になってくると、ギターやドラムの音の上で転がっているようなイメージも喚起され、おどりと一体化していったように思う。



 

 衣装についても触れておきたい。峰尾といしだまの衣装の柄は揃いで、どうやら着物をといて作った衣装ではないだろうか。特に峰尾の衣装は、細い帯状の布を、上半身は巻くようにして、下半身はプリーツのように並べてつなぎ、動きによって違う表情を見せる。おどる峰尾の四肢を魅力的に見せていた。動きやすさと見映えを兼ねた印象的な衣装だった。


 明かりが戻り、拍手が起こり、演者の緊張が解け、空気が変わった。溶け合っていたものが「個」に戻り、公演は終わった。

2023.07.01

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柴山麻妃

●月に一度、舞台芸術に関係するアレコレを書いていきまーす●

大学院時代から(ブラジル滞在の1年の休刊をはさみ)10年間、演劇批評雑誌New Theatre Reviewを刊行。
2005年~朝日新聞に劇評を執筆
2019年~毎日新聞に「舞台芸術と社会の関わり」についての論考を執筆

舞台、映画、読書をこよなく愛しております。
演劇の楽しさを広げたいと、観劇後にお茶しながら感想を話す「シアターカフェ」も不定期で開催中。
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