劇ナビFUKUOKA(福岡)

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「再生」ハイバイ

2023年7月9日(日)15:00 @山口情報芸術センター・スタジオB


●ハイバイ

『再生』

演出:岩井秀人

原案:多田淳之介(東京デスロック)

出演:日下七海、小宮海里、田中音江、つぐみ、徳永伸光、南川泰規、乗松薫、八木光太郎、山本直寛


 『再生』を見るのは三度目である。最初は、東京デスロックによる初期の『再/生』を2012年ぽんプラザホールで。セリフもなく、ただ役者たちが踊り狂って倒れていき、また再生して踊り狂って…を3回繰り返す。とにかく衝撃的だった。役者(あるいはダンサー?)の疲弊していく身体と、澱んでいくかに思える空気(酸欠状態?)、さてこれは「再生」の物語なのか、「死に向かう」物語なのかと混乱して絶句した。二度目はそれから10年後、2022年に北九州芸術劇場にて。今度はセリフもあり、より初演(2006年)当初の「集団自殺をする若者たちの宴」というモチーフが明らかになっていた。しかも出演者の20代バージョンと同時に40代バージョンも作られ(残念ながら後者は見られなかったのだが)面白い広がりがあるものだと感心した。作りは前回と同じで、全員が踊り始めて倒れ死に到達するまでを3回繰り返す。ただ1度目の作品と違うのは宴会シーンがあること。そこでの彼らは明るく楽し気ではあるが、会話は極めて表層的で、その後に続くハイテンションのバカ騒ぎも軽く感じられる。彼らの行動の意味に物語性を見出すことになり、私には「繰り返す意義」があまりないように感じた。

 そうして3度目の今回は、原案の多田淳之介(東京デスロック)ではなく岩井秀人(ハイバイ)演出による『再生』である。一言で表せば「最後の最後までワクワクさせる作品」だった。

   


 舞台奥から半分囲む形で階段状のブリッジがある。手すりが大小の□になっていて青紫がかった暗くて妖しい空間の中でも際立って見える。そこに色とりどりの衣装の9名が不規則に倒れている。…そこにダフト・パンクの『One More Time』が流れ始め…順番に起き上がり立ち上がり、全身全霊で動き回り踊り始めた。彼らは6曲の音楽が流れるあいだずっと踊り続け動き続け、最後のBanvox 『Laser』の曲が終わる頃に一人、また一人と倒れて息絶えていく…これが3回繰り返される。


 ワクワクさせられたのは、奇抜で目を引く衣装のせい(藤谷香子)もあるし、彼らの運動能力のせいもあるだろう(汗が落ちるさま、汗で体にまとわりつく衣装、少しずつ息が上がる様子、もあるのだが、驚くほどに再現性が高く、そして手を抜かない踊りである!)。また蛍光色のレーザー光線、風船やら突如として体に巻き付けたライト、ミラーボールを天に返すしぐさ、頭に載せたリンゴを別の誰かが食べる、といった心浮き立つ小道具のせいでもある。忘れてはならない、選曲のセンスにもニヤリとする。だがなにより、多様な想像力を喚起させる「イメージの遊び」が本作にはある。


 たとえば、殴り合いのようなジェスチャーの後で倒れていき、しばらく後に起きあがって同じことをくり返す様子はゾンビにも見える。死を恐れず、痛みもない、永遠に「生/死」をさまようだけの存在。彼らの動きの再現性が高いだけに(3回とも動きが正確に同じ)、彼らには時間の存在がないように見えた。「存在しない時間」を感じるのは面白い。


 チラシに「命のお祭り」という文字が躍るが、生と死を扱う作品に祝祭性は欠かせないだろう。彼らの反復は儀式のようにも見えるし、それによって禁忌を破る(=死へと向かう)ことを示唆しているともいえる。昨年見た『再生』(セリフ有の宴会から死へと向かう作品)は、「服毒し、ハイテンションになって踊り、死に至った」のだが、それは死への恐れや緊張からの興奮が踊らせたように見える。だが本作での踊りは「日常からの逸脱、社会的秩序の逆転」の象徴に見え、だからこそ「日常(生)/非日常(死)」の狭間をさまよう祝祭の儀式にも見える。この祝祭性の高さが、本作の重要な点だろう。


 また本作に生物が持つ生命力も見える。わずかなダメージなんてものともしない生への執念深さ。それも9名の役者の姿が苦しんだりもがいたりしていないために、一個体の話ではなく、種レベルでの生命への執念を感じる。種としての生命力の強さ。

 同様に、いずれは朽ちる身体(個体)と、それでも繋がって遺っていくDNA(種)にも思いが行く。劇場を出た時にらせん状の舞台イメージ模型が置かれていたが、「目に見えないのに確かにある(と思う)生命、受け継がれていく生命とは何だろう」と思考が広がっていった。

 だから見ている間ずっとワクワクしていたのだろう。そして私もその一部なのだという喜び。なんて豪快でスケールの大きな、生命の祝祭なのだろう! 


 乾杯したいと思った。全ての生命に。



追記:終演後の「岩井バー」で見知らぬ観客が「(劇中に登場した)ペットボトルは、『リサイクル=再生』ってことなのかなと…」と一言。なるほど! 

2023.08.02

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柴山麻妃

●月に一度、舞台芸術に関係するアレコレを書いていきまーす●

大学院時代から(ブラジル滞在の1年の休刊をはさみ)10年間、演劇批評雑誌New Theatre Reviewを刊行。
2005年~朝日新聞に劇評を執筆
2019年~毎日新聞に「舞台芸術と社会の関わり」についての論考を執筆

舞台、映画、読書をこよなく愛しております。
演劇の楽しさを広げたいと、観劇後にお茶しながら感想を話す「シアターカフェ」も不定期で開催中。
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