劇ナビFUKUOKA(福岡)

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劇ナビインタビューNo10 劇団四季 代表取締役社長 吉田智誉樹さん

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水上)本日はよろしくお願いします。5年ぶりになります。

吉田)前回インタビューしていただいたのは2016年です。ちょうどこの劇場の長期使用が始まる前でした。

水)今回は、キャナルシティ劇場での最後の公演という時期になりました。

吉)そうですね。

水)いろいろ複雑な思いがありますが、そのお話の前に、昨年からのコロナウイルス感染症による影響が大きかったことと思いますので、まずは四季がどのような苦労をされたのか、この1年を振り返って、この間に起こったこと、そして四季が取った対策、その辺りからお話を伺いたいです。

 

イベント自粛要請による公演の中止 劇団存亡ラインのシミュレーションを行う。

 

吉)コロナ禍はまだ継続しているので、総括する気持ちにはとてもなれないのですが、一種の記録として申し上げます。

やはり最も苦しかったのは昨年の春です。2020226日に政府からイベント自粛の要請がありました。この衝撃は大きかったですね。我々は舞台を上演し、そこから生まれる糧で生きています。糧を生み出すのは満員の客席です。これが問題とされてしまい、言葉にならないほどのショックを受けました。演劇はお客様がいないと成り立たない芸術ですので、社会に寄り添う宿命を持っています。当時、コロナウイルスは未知の疫病でしたし、我々も社会を守るために協力をしなければならない。身を切られるような思いで、要請に従って四季の全ての公演を中止にしました。先も見通せず、非常に不安でした。

 それでも、何としても組織を残さねばならない。最初に考えたことは、俳優やスタッフをどうやって守るかということです。特に公演が中止になり、出演が無くなってしまった俳優たちが心配でした。緊急事態宣言が発出され、ステイホームをしなければならなかった時期、スタッフの仕事は在宅でもできましたが、俳優たちはコンディションを保つため、家で自己鍛錬をするしかなかった。メンタル面で大きな影響を受けたと思います。また彼らの報酬は出演に紐づくため、公演がなくなったことで経済的な不安もあったはず。ですから、先ずはこの不安を解消できるよう、公演はありませんでしたが一定の報酬を支払いました。また、オンラインのレッスンなども導入し、稽古を続けられる工夫をした。再開の日はいずれ来ると信じて、その日のための準備に注力するようにしました。

 同時期に、劇団の「存亡ライン」について、シミュレーションを行いました。

コロナ禍は、おそらく我々が過去に経験したトラブルの中でも群を抜いて大きなものであり、かつ、ライブイベント業界の「一丁目一番地」を直撃した災厄です。そこで公演中止がこのまま長期間にわたって継続したり、あるいは公演が再開できたとしても客席数に大幅な制限がかかったり、さらには入場率が極端に低い状況が続いたりした場合、どのくらいの期間、この組織が存続できるのかというシミュレーションを行いました。資産状況の再点検や、借り入れの可能性の検討などです。その結果、もし公演中止や極めて厳しい客席数制限などが続いても、2年ほどは持ちこたえられる目算が立ちました。具体的なラインが見えたことで、少し平常心を取り戻すことができました。

水)具体的にはいつぐらいの時期に行ったんですか?

吉)昨年の春ですね。

水)4月、5月ですか?

吉)ステイホームが始まったばかりのころですね。

水)割りに早い段階だったんですね。

 

公演再開に向けて

 

吉)5月末ごろで緊急事態宣言が解除される見通しが立ち、公演再開に向けての議論が始まりました。

俳優たちは、最長で3ヵ月半ほどの自宅待機期間を強いられました。ですので、緊急事態宣言が解除されたからと言って、すぐに公演が再開できるわけではない。野球でいうところのキャンプインからやり直さなくてはいけないわけです。この稽古にどのくらいの時間がかかるか、どのように稽古を行うか、といったことを検討しました。

最も気を遣ったのは、感染対策です。600人いる俳優たちが一斉に稽古場に集まることは、感染防止の観点から、極めて難しくなってしまいました。万一感染者が出た場合、全く制御ができなくなってしまうからです。そこで、カンパニーごとに班分けをして稽古を行うことにしました。

 我々には、舞台セットがそのまま入るほどの大きな稽古場が3つあります。当時、6つのカンパニーが再開予定でしたので、まずは6班を半分に分けた。そして前半の3班が、3つの稽古場に分かれて稽古をするようにしました。さらに食事やトイレの場所も班ごとに全部ゾーニングをして、それぞれが交わることの無いよう徹底しました。前半組が稽古場で2週間稽古を行い、彼らが劇場に行ったあと、次の3班が稽古場で稽古を始める。この2段階を経て公演再開に向けた稽古を行いました。

稽古を始める前には、感染制御学の先生にご意見やご指導をいただき、様々なリスクについて理解を深めながら進めていきました。

水)ひとつの班で450人くらいいますね?

吉)そうですね。スタッフまで入れると、さらに多くなります。

 

撮影:重松美佐_O3A0705_m.jpg

 

再開の日が創立記念日

 

吉)劇団員から一人も感染者を出さないよう厳重な注意を払いながら、再開の日を迎えました。714日でした。この日は奇しくも、我々の創立記念日。もちろん、アニバーサリーに合わせた再開など考えたこともなく、冷静な作業工程の逆算から導き出された日程でした。この偶然には、天国にいる先輩たちが後押ししてくれているような、「お前らまだ、くたばっちゃだめだぞ」と言ってくれているような気がしましたね。公演が再開したときには、本当にみんな感動していました。毎日のように公演がある日々を過ごしていた俳優たちが、その仕事を4ヶ月近く奪われて、ようやく舞台に立てた。終演後にはみんな楽屋で泣いていました。客席は収容人数の半数しか入れられない状況だったのですが、それでもいつもより拍手が多かったように感じました。

水)それは、同じような仕事に携わっている人間として、とてもよくわかります。あの拍手ってうれしいですよね。

吉)そうですね。あの日はやっぱり特別でしたね。お客様の中にも、涙を流して喜んでおられる方もいました。

水)それを目撃されたのはどの舞台だったんですか?

吉)KAAT神奈川芸術劇場で上演した「マンマ・ミーア!」ですね。本当は3月に開幕する予定で、舞台稽古、通し稽古までやっていたのですが、そこで公演中止になってしまった。結果的に、この日が初日になったのです。数か月遅れてやっと開幕できた公演だったので、なおさらでした。

水)そうでしたか。714日。創立何周年記念だったんですか?

吉)67周年です。劇団の歴史に残る日になりました。

 

業界に画期的な動きが生まれる。「緊急事態舞台芸術ネットワーク」の成果

 

水)コロナ禍で吉田さんもいろいろ発信をされました。社会的にも変化がありました。

吉)大きなトピックとしては、「緊急事態舞台芸術ネットワーク」という業界団体が出来たことです。これは、野田秀樹さんと骨董通り法律事務所の福井健策弁護士が、粉骨砕身して作ってくださった組織です。劇団四季もここに参加しています。私は今、代表理事の一人でもあります。

水)それはどんな活動をされているんですか?

吉)公演を行うためのガイドラインを策定したり、政府との折衝を行っています。安全安心な劇場運営のためにどのような対策をすればよいのかというガイドラインを定め、関係機関と協議し、公演の再開を実現するのが最初の目的です。また、演劇界を支援したいと考えていた政府からは、「どこに話をすればいいのか分からない」と言われていました。コロナ禍以前、この業界には包括的な団体がなかった。今はこの緊急事態舞台芸術ネットワークが、演劇界を代表して政府や自治体と折衝を行っています。

私自身は、国や自治体との折衝を担いました。たとえば、緊急事態舞台芸術ネットワークの代表として、当時の総理大臣である菅さんのところに伺い、演劇界の実情をお伝えしたり、補助金の積み増しをお願いしたりしました。また、海外アーティストやクリエイティブスタッフの入国制限緩和をお願いしました。

水)これはある意味画期的ですね。

吉)本当に画期的だと思います。

水)その緊急事態舞台芸術ネットワークによって得られた成果がかなり大きいということですか?

吉)そうですね。成果は確実に表れています。

水)先ほど補助金の話が出ましたが、具体的に、四季が受けた公的な支援はありますか?

吉)経済産業省のJ-LODliveと文化庁の継続支援事業が主なものです。これらの支援には、非常に感謝しています。ただ審査が煩雑で、入金まで長い時間が掛かっています。こうした問題について、今も政府と折衝しています。

 

入場者数の制限撤廃に向けて

 

吉)今緊急事態舞台芸術ネットワークで主張していることの1つが、収容率制限の撤廃です。今(914日時点)は、緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置が発出されると、定員の50%までしかチケットを販売できないことになっています。その時点で販売済みのチケットを払い戻す必要はないものの、かなり厳しい制限です。これは是非とも撤廃をお願いしたい(1119日にイベントの開催制限が緩和されました。マスクの着用や大声を出さないことの徹底、密集回避などの感染防止策を行えば、人数上限10000人かつ収容率の上限を100%にすることが認められています。)

水)それを交渉しているんですか?

吉)はい。内閣府のコロナ対策室の方々や、西村大臣(当時)にも直接、お目にかかってお願いしました。劇場では、お客様は基本的に全員前を向いて舞台をご覧になり、上演中は声を出されることもない。現在はどの劇場も感染対策を徹底しており、客席では会話を控えるようお客様にお願いもしています。収容率に制限をかけるのであれば、エビデンスを示していただきたいと思っています。

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福岡市のキャナルシティ劇場入口

水)たしかにそうですね。映画館は、常に換気することで安全性をアピールしています。

 

吉)劇場も、法令によって一定の換気能力を持つことが義務付けられています。これによって、必要十分な換気が既に行われている。さらにお客様には、ご観劇に際しては、自宅や職場から直接劇場にお越しいただき、終演後は速やかにお帰り頂く、つまり「直行直帰」のお願いも行っています。

 

水)早く撤廃してほしいですね、制限を。私も同じ仕事をしている経営者として、融資も含めて2年までは何とか持ちこたえられる準備をしました。先ほど吉田さんが最初におっしゃった「俳優に対しての収入の補償」というのは、経営者としてはとても大切なことで素晴らしいことだなと思いました。経営体力的に持つ期間というのは限られていると思いますが、もうしばらくコロナと一緒の生活様式の中、続けながらやらざるを得ないですね。

吉)そうですね。完全な収束に至るには、まだ時間がかかると思っています。

 

改善の兆しも

 

吉)お客様も徐々に戻って来てくださっています。今年の6月に「アナと雪の女王」が東京で開幕したのですが、特にこれが好評です。現在202212月までのチケットを販売しており、来年の4月頃までは、ほぼ完売している状況です。この作品の好調が他の演目にも影響し、全体的にチケットの販売状況は上がってきています。

水)それこそこの間、東京に出張に行ったときに、そのチケットは、もう全然なかったです。

でも「アラジン」は拝見しました。とても感動いたしました。

吉)ありがとうございます。

水)これから、まだ見通せない部分も多いですがいかがですか。

吉)今後もしばらくの間は、コロナと付き合っていかざるを得ないのでしょう。しっかりと感染対策を行って劇場の安全性を訴えながら、お客様を迎え入れ続けるということでしょうか。幸いにして、当初、劇団の存亡ラインをシミュレーションしたときよりも、状況はかなり良くなっています。

水)回復してきたんですね、良かったです。海外のカンパニーともお付き合いがあると思うのですが、海外でも昨年一年はロックダウンがあったり、パリでもニューヨークでも動きが止まっていました。今、向こうの動きはどうですか?

吉)ロンドンの劇場は7月くらいから再開しているようですし、ニューヨークは、大部分の劇場が今日から再開ではないでしょうか。

水)なるほど、そうですか。世界も少しずつ動きが始まってるようで、明るい見通しが出てくるかもしれませんね。

吉)そうですね。現状を改善するための策としては、やはりワクチンの接種率が高まっていくことだと思います。実感もあります。というのも、福岡での「キャッツ」もそうですが、65歳以上の方のワクチンを接種が進むまでは、若いお客様が多かった。若いご夫婦がお子さんをつれていらっしゃる姿はありましたが、祖父母世代がご一緒されるケースは少なかったように感じました。それが、最近は三世代で来てくださっている姿をよく見かけるようになりました。

水)なるほど。その辺でもマインドが変わってきてるということですよね。

 

四季の創作活動

 

水)コロナの話はこの辺にして、今度は四季のこれからのことをお聞きしたいです。この間「ロボット・イン・ザ・ガーデン」を拝見させていただきました。

吉)ありがとうございます。

水)いわゆる完全オリジナルとして作られましたよね?先日東京の劇場でポスターを拝見しましたが、「バケモノの子」も来春上演予定とのこと。そういう新たなオリジナル作品の創作というのを今始められています。

5年前にお話をお聞きしたときは、「浅利慶太さんが代表の時には、浅利さんの作品があった。それ以降、ディズニーなど海外作品ではないオリジナルのものをどうやって制作されますか?」とお聞きしました。その時には「劇団内でクリエイティブの才能を発掘して育てたり、外部の力を借りたり、様々な方法を考えている。ネットワークを持っているので、海外のスタッフの力をお借りすることもあるかもしれない」とおっしゃっていたのですが、その時からこの「ロボット・イン・ザ・ガーデン」についても考えていたのですか?

吉)2016年末には、「ロボット・イン・ザ・ガーデン」が題材の候補に挙がっていたはずですね。おっしゃる通りで、この作品には、演出や台本・作詞など様々な分野で外部のクリエイターが携わっており、パペットデザインとディレクションを担当してくださったのは、ディズニーの「リトルマーメイド」で協業した、イギリスのトビー・オリエさんです。「ロボット・イン・ザ・ガーデン」に登場するロボットのタングはパペットで表現することになったため、迷わず彼にお願いをしました。本来は稽古期間に来日していただいて、指導していただくはずだったのですが、コロナ禍で叶わず、創作も俳優の稽古も全てリモートで行いました。

水)えー、あれを?

吉)イギリスにいらっしゃるトビーさんが、ご自身で作った小さいタングを画面越しに見せながら、足はこういう風に動かすんだよ等、具体的に指導してくださったんです。俳優たちがタングを操作するのも、最初は非常に苦戦していて、ジタバタしているだけで、ただの“物”にしか見えなかったのですが、今は御覧の通りで非常にスムーズですし、彼の意思を正確に表現出来ています。これは全て、トビーさんのご指導の賜物です。

水)久しぶりに作られた新作でパペットを使っているというのがちょっと意外でした。

吉)どうやってタングを表現するかを試行錯誤している中、パペットを使うという結論に至ったのは、トビーさんの存在が大きかった。この人に相談すればいいアイディアを出してくださるんじゃないかと。結果、とても愛らしいタングを作り上げてくださった。お客様にもたいへん人気があります。

 

映像配信

 

水)ちょうど開幕は緊急事態宣言の最中でした。ライブ配信もやりましたよね。

吉)劇団四季として初めてのライブ配信となりました。

水)あれについては、どういう経緯で?

吉)収益の多様化という目的が第一です。ライブ配信が演劇の感動を100%代替することはできませんが、遠方にお住まいの方や劇場に足を運べる環境にない方が、配信を通じて作品をお楽しみいただけるメリットは大切にしたいと考えました。

水)配信をご覧になった方というのはどのくらいの規模いらっしゃるんでしょうか?

吉)こちらの予測を大きく上回る数のチケットをご購入いただきました。本業を補えるほどではありませんが、一定の成果はあったと思っています。

水)本業はもちろん生の演劇。四季はずっと演劇専科でやってこられているのでそれは変わらないと思うんですが、今おっしゃった観劇機会の拡大と収益の多様化のことも含めると、今後の1つの課題にはなりますね。

吉)ライブ配信は今後も継続していきたいと思っています。「はじまりの樹の神話~こそあどの森の物語~」というオリジナルのファミリーミュージカルが今年8月に自由劇場で開幕したのですが、この作品でも2日間で計4公演、ライブ配信を行いました。ただ、ライブ配信や映像の二次使用は、海外から輸入する作品では契約的に許されていませんので、我々自身が権利を持つ作品でないとできません。ですから、今後は新しいオリジナルコンテンツの創作が、ますます重要度を増してきます。先ほど話題になった新作の「はじまりの樹の神話」は、福岡でも来年2月に上演予定ですので、ぜひ生の舞台をご覧いただきたいですね。

はじまり撮影:下坂敦俊_Y5A2294_クレジット入り.jpgのサムネール画像

はじまりの樹の神話

 

新作の魅力を大いに語る

 

水)オリジナル作品の創作活動には期待したいです。

吉)多少無謀だと思われても、「年に1本、新作オリジナルを作る」という目標を掲げ、ここまでは何とか実現出来ています。2019年は「カモメに飛ぶことを教えた猫」というファミリーミュージカルを、昨年には「ロボット・イン・ザ・ガーデン」、今年が「はじまりの樹の神話」です。ファミリーミュージカルと一般ミュージカルを交互に創作しています。そして来年が「バケモノの子」ですね。

水)「バケモノの子」は長編アニメーション映画が原作ですが、オリジナル作品の創作活動はいわゆる原作探しからですか?

吉)先ほど挙がった4作品はすべて原作があります。「カモメに飛ぶことを教えた猫」、「ロボット・イン・ザ・ガーデン」、「はじまりの樹の神話」の三作は小説が原作ですね。「バケモノの子」は、おっしゃる通りで、今年「竜とそばかすの姫」が大ヒットした、細田守監督率いるスタジオ地図製作のアニメ映画です。原作、すなわち題材探しが1番大事です。

水)原作探し。次に台本作成、作詞作曲というスタッフワークがある。

吉)はい。実際の作業に入る前には、クリエイターの布陣を決めなければなりません。「ロボット・イン・ザ・ガーデン」では、長田育恵さんと小山ゆうなさんという2人のクリエイターに、それぞれ台本・作詞と演出を担当していただいたのですが、非常にいいチームになったと思っています。私は長田さんのファンで、以前からよく舞台を拝見していました。特に印象に残っているのが、こんにゃく座のオペラ「遠野物語」。柳田国男の伝聞集を見事なストーリーに組み立てておられて、その構成力に感心しました。新しいオリジナル作品の台本をお願いするのはこの人しかいないとオファーをしたら、ご快諾を頂きました。

水)そうなんですね。そうやって社長自ら、発掘されることもあるのですね。

吉)小山さんの舞台は、世田谷パブリックシアターで上演された「チック」という作品を拝見しました。読売演劇大賞の優秀演出家賞も受賞された作品です。これは、いわゆるロードムービー型のお芝居でした。ロードムービーのようなストーリーを舞台にするのは、様々な工夫が必要で、難しいんです。場所の変化や移動を、限られた舞台上で表現しなければならない。小山さんはそれを見事に捌かれていました。ご覧になってお分かりのように、「ロボット・イン・ザ・ガーデン」は世界中を旅するお話ですからね。こういう複雑な構造を持った物語の演出には小山さんしかいないと思い、お願いをしました。

 

「バケモノの子」

 

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水)「バケモノの子」はいかがですか?

吉)「バケモノの子」の演出は、青木豪さんです。青木さんとは2018年に上演した「恋におちたシェイクスピア」で一度、一緒にお仕事しているのでよく存じ上げています。青木さんも本当に素晴らしい演出家です。キャストと一緒に役を作るような演出をされる。

水)これは2022年の春からですね。今はまだ本の最中なのかな?

吉)台本は劇団のOGで、「アナと雪の女王」の翻訳で知られる高橋知伽江さんにお願いしました。ほぼ出来上がっています。少し前に仮のキャストで読み合わせを行いました。まだ音楽も歌もない状態ですが、非常に素晴らしい出来でした。親子の愛、つまり親が子を想う愛、子が親を想う愛が丁寧に描かれていて、幕切れは非常に感動的になりました。また、異世界の物語ですから、イリュージョンやトリックも使われる予定です。お客様をびっくりさせつつ、最後は大きな感動で包み込みたいと考えています。

水)そうですか。それは楽しみですね。

吉)乾坤一擲の勝負です。劇団四季史上、最大規模の新作オリジナルミュージカルとなります。しっかりと準備して、成功させたいです。また、すぐには無理ですが、将来は海外で上演するといったことも考えていきたい。

水)いいですね。そういう勝負に出られるのは、とっても応援したくなります。

吉)ありがとうございます。頑張って良い舞台を作りたいと思います。

水)楽しみになってまいりました。

 

キャナルシティ劇場の専用使用の終了

 

水)ここキャナルシティ劇場の専用使用が来年で終了ということですが、福岡や九州での今後の四季の活動についてお話を聞かせてください。

吉)20225月でキャナルシティ劇場との契約が終了します。我々は継続したかったのですが、オーナーのご意向を尊重しなければなりません。また、ここまでの間、劇場の占有使用を認めてくださったオーナーには、心から感謝をしています。

コロナウイルスの影響を受けるまでの平均入場率は90%を超えていました。我々としてもしっかりとした成果を残せたと感じています。今後も福岡、九州での演劇活動は続けていきたい。一旦は、全国各地を巡演するツアー公演のスタイルで、福岡や九州の各都市をお邪魔するという形になると思います。必ず年に数回は公演させていただこうと考えています。

水)福岡には劇場が少ないですよね?

吉)おっしゃる通り、長期間お借りできる劇場が少ないので、公共ホールを使って、お貸しいただける期間内での公演をするということになります。最長1週間程度と伺っていますので、公演は45日程というところでしょうか。「キャッツ」や「オペラ座の怪人」、「ライオンキング」といったような設営に長期間を要するものは、現状では上演が難しくなります。

ただ、この状態がベストではないと感じています。これまでずっと拠点劇場を構えて公演をさせていただいた都市ですので、手段がないかを模索していこうと思っています。

水)福岡市では大型ミュージカルが上演出来る劇場がキャナルシティ劇場と博多座と福岡市民会館。市民会館が今、建て替え準備中で、建て変わっても、貸館として手一杯になりそうなんですよ。福岡には劇場が足りていないんじゃないかと思うのですが、いかがですか?

吉)そうなのですね。我々としても、フレキシブルな運用をして下さる劇場がもし福岡にあれば、可能性は広がります。

水)ぜひ働きかけてください。

吉)努力は続けますが、我々だけでは難しいかも知れません。地元のご協力が得られれば力強いと思います。

 

専用劇場は福岡に必要?

 

水)これから福岡では、舞台設営に時間のかからない規模の作品が上演されるということですね。

吉)例えば「ジーザス・クライスト=スーパースター」はツアー公演の実績もありますし、「ロボット・イン・ザ・ガーデン」は来年全国ツアーを行います。そういった種類の作品が主になると思います

水)長期公演が無くなるということは、日常生活にミュージカルが溶け込んでいた生活がスポーンとなくなってしまうという問題もあるわけですよね?

吉)現状では、長期間のロングラン公演は難しいです。お客様には本当に申し訳ないと思っております。

水)あったものがなくなるのですから、そのことに対する働きかけというのは起きてもいいと私は思うのですが。

吉)福岡でも多くの方が「四季の会」という会員組織に入会されていますし、その方々に対してソフトを提供し続ける責任が我々にはあると思っています。ただ、現状では如何ともしがたい。コロナ禍で経営基盤に直撃を受けている状況では、我々自身が劇場を建てるという選択肢も難しい。やはり現在ある劇場をお借りするという形は変えられないと思っています。そして現状、長期間でお借りできる劇場の目処が立っていないということです。

水)今はですね。しかも、建てると言っても劇場の建設には何年かかかりますからね。

吉)そうですね。また仮に長期間お借りできる劇場があったとしても、劇場の予約というのは通常2年先、3年先になります。現状、目処がたっていないということは、少なくとも数年間はツアー公演を中心とした上演になるかと思います。

水)昔、百道浜にキャッツ・シアターを建てられましたね。

吉)はい。ただ、あの劇場はテント型の仮設劇場でした。これは「キャッツ」だから実現したこと。テント型の劇場は外の音も入ってしまいますが、これは都会のゴミ捨て場を舞台にした「キャッツ」だからこそ許される。同じ条件で「オペラ座の怪人」を上演するというわけにはいきません。

水)そうですね。

吉)また、「キャッツ」には、いわゆる吊りものがありません。劇場にはフライタワーという、吊りものを収納する部分があるのですが、「キャッツ」を上演する劇場にはこれが必要ない。ですから、テント型でも上演できるんです。

水)たしかに、おっしゃる通りですね。では、当面は我慢するしかないということですね。

吉)本当に申し訳ないと思っています。

水)劇場を立てるには10年くらいかかりますから、ぜひ、早めに声掛けていただいて、動いてください。実績を使ってですね、プロモーションをぜひ、働きかけをお願いします。

 

コロナ後を見据えて。演劇の唯一無二の体験価値とは

 

水)最後の質問になります。withコロナにおいての我々のエンターテインメントについて、ご意見等があればお聞かせください。

吉)コロナ禍に見舞われ、「演劇とはなにか?」をこれほど考えた日々はありませんでした。「ニューノーマルな業態でないとどの業界も生き残れない」という声を耳にし、では「演劇のニューノーマルとは一体なんだ?」と考え抜きました。

ライブ配信は、その一つの答えなのかもしれません。しかし先ほども申し上げた通り、映像がベースになる配信では、演劇の魅力を必要十分に代替できないと強く感じていました。そんな時、ある雑誌に掲載された「チームラボ」の代表者、猪子寿之さんのインタビューを目にしました。猪子さんはその中で、「アフターコロナのようなものはない。以前からあることは加速するが、これまで起こっていないことは、いずれ元に戻る」ということをおっしゃっていました。

その言葉が非常に腑に落ちて、頭の中が整理できました。「これまで起こっていないこと」には必ず理由がある。それは、「起こるべき価値が無かった」からだと思うのです。ライブ配信やzoomを使った演劇は、コロナ以前には存在していなかった。それは、このような手法が、そもそも演劇足り得なかったからだと思います。演劇の魅力の源泉は、人同士が直接その場で相対し同じ空気を共有する「同時性」と、同一公演であっても全く同じ舞台は二度とできないという「一回性」です。配信ではこれがどうしても伝わらない。ネットや映像が演劇の完全な代替足り得るためには、映画「マトリックス」のように、人間の神経組織に直接電気信号を送るような技術でも開発されない限り、恐らく難しいのではないかと思います。世界がどんなにリモート時代に変わろうとも、演劇の魅力は、このアナログで手間が掛かる構造そのものに存在している。だから、「いずれ元に戻る」と思うのです。

撮影:重松美佐_O3A0198_m.jpgのサムネール画像

水)そうですね。観客も舞台を構成するひとつの要素ですよね。

吉)その通りです。お客様がいない演劇というのはありえない。お客様がいなければ、それは舞台稽古にすぎない。演劇は、観客が客席に座って、初めて成り立つ芸術なのです。これまで人類の歴史には様々な疫病の流行や戦争、災害がありましたが、演劇は古代ギリシャの時代から今まで、ずっと同じ形で残っている。演劇はしぶとい芸術なのだと思います。

 

水)最後に力強い言葉をもらいました。ありがとうございます。おっしゃる通りですね。本当に長時間、ありがとうございました。これからの活躍をご祈念いたします。ともに生き残っていきましょう。

 

 

<編集後記>

吉田社長へのインタビューは2回目になります。

コロナウイルスの世界的な感染拡大で大きな影響を受けた演劇業界ですが、いち早く組織の維持に向けて動かれた吉田さん、真っ先に劇団員の生活保障を行ったことは素晴らしいことです。

まだ終息が見通せない中で、厳しい一年間を振り返ってもらいました。

インタビューの中で、一番生き生きと話が進んだのは、作品を語るときでした。

演劇少年のように作品の魅力を語る吉田さんは嬉しそうに笑顔がこぼれて、ああ、ホントに演劇がお好きなんだと感じました。

キャナルシティ劇場とこれからの福岡の話の時には苦しそうでした。質問者側がつい突っ込みすぎまして、いろいろとプレッシャーをかけてしまいました。

今後のコロナ後について、演劇の価値を語っていただきましたが、同業者として共感する話でした。

 

この取材は2021914日に行いました。

内容については、取材時の状況が反映していますこと、ご了解ください。

 

文責:水上徹也

2021.12.17

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