劇ナビFUKUOKA(福岡)

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青年劇場 『キュリー・キュリー』

僕はキュリー夫人のことは、実を言うとあまり知らない。

「中学校の教科書に載っていた。偉人伝の人気も高い。ラジウムを発見した女性初のノーベル賞受賞者。たしか日本にも来日し、多くの名言を残している。  だけど、、、、、、あまりに偉人といわれると敬遠してしまう。」

 

この作品は、そんな人にお勧めの作品。

(11月3日 ももちパレス)

 

マリーとピエール・キュリー夫妻、その出会いからラジウム発見までを舞台化したものだが、二人のやり取りをまじめに見ていては味気ない。

「そんなに献身的に実験室で頑張らなくても」と言うピエールに、

「自己犠牲?私が実験室にこもるのは、自分の悦びのため。快感ね。」

と言い放つシーンが印象的だった。

 

実は、ドラマは、乳母の口を通して語られる。母マリーの姿を、娘が聴きながら進行していく。

実験に明け暮れ、構ってもらえなかったこと、自分は科学ではなくピアニストとしての道を選んだこと、ホントの気持ちを伝えられない悩み。

その娘が、母の真実を知るまでの物語でもある。

 

母(キュリー夫人)は、社会のため、名誉のため、に困難と闘ったのではなく、ほんとうに科学が好きだった。好きなことをやり遂げて、成功した。

ラジウムの実験に成功し、夫妻が興奮して喜びあったとき、マリーは夫に言った。

「最初にすることは、愛し合うことよ。さあ服を脱いで!」

 

自分に素直に生きる、その生き方が、子どもに伝わった時、母子が理解しあえた。

女性は逞しい! そして、この時代(1890年代)に、その生き方を貫いたマリー・キュリーに、人間としての興味がわいた。

2012.11.28

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劇団扉座 人情噺 端敵☆天下茶屋

11月も残り少なくなって来ました。

いろいろ観た作品を紹介するつもりが、観に行く回数に、原稿が追いつかない。

いろいろ言い訳を考えながら、えいっと自分の背中を押してこの原稿を書いています。

 

今回紹介するのは、劇団扉座の『人情噺 端敵☆天下茶屋』。

作演出の横内謙介は先代猿之助のスーパー歌舞伎『三国志』シリーズの作者といえばお分かりでしょうか。

横内謙介が主催する劇団扉座は、『扉座』になってから20年、『善人会議』時代からすると30年にもなる「老舗」劇団。

さて、歌舞伎に登場する小悪党のことを「端敵」というらしく、真の敵「大敵」に比べるとほんの脇役らしい。ちょろちょろと、小賢しい悪事を働くのが、六角精児というので、北九州の新しいホール「黒崎ひびしんホール」へ足を運んだ。 (11月2日)

物語は、「悪役」で飯を食ってきた男たちが、自分たちが主役の演劇を作ろうと稽古しているところから始まる。

その稽古をチェックしているのが、元映画プロデューサー役の六角精児。メンバーの代表の昔の友人ということで、作品についての意見を求められている。そこで、もっともらしいことを言うのだが、本人は、全く関心がない。ところが、公演を準備するために用意した金が600万円あると聞いてから、様子が変わりだす。悪の虫が動き出したようだ。

「悪役」連中は、顔は悪役だが、心は素直で善人ばかり。すっかり六角を信じ切り、金を預け、芝居の演出を任せる。

ところが、金は一日で使い切り、それをごまかそうとして、あの手この手で善人たちをだましていく。

「そこまでやるか」というくらい、人を騙す。裏切る。六角精児は、そんな小悪党がよく似合う。

このシリーズ、もっと悪を主役にしていってはどうか。歌舞伎も悪を主役にした魅力的な作品が多い。

扉座の舞台も、もっと福岡で公演が増えていい。そんなことを考えながら黒崎の街を後にした。

2012.11.24

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METライブビューイング ドニゼッティ『愛の妙薬』

オペラの初体験はたしか、モーツァルトの『フィガロの結婚』だった。

新婦スザンナに浮気心を寄せる伯爵や、年若い奉公人から求愛を受ける伯爵夫人などが出てきて、オペラというのは何と男女関係があけっぴろげでおおらかなんだろうと驚いた。

 

さて、『愛の妙薬』。(11月3日 中洲大洋)

 

ニューヨークのメトロポリタン歌劇場(MET)で上演されているオペラをわずか数週間後にスクリーンで観られる『METライブビューイング』の今シーズン第1弾。(1013日撮影、113日封切)

何といっても、世界最大級のMETの素晴らしさ。劇場の存在感に圧倒され、客席の豪華さにうっとりしていると、オーバーチュアが流れ出す。ワクワクと胸が高鳴る。

世界トップレベルの出演者、フルオーケストラでぎっしりのオーケストラピット、満員の客席。開演ベルの変わりに、客席近くまで吊り下がっていたシャンデリアが天井に吸い込まれていく。

 

物語は、恋に焦がれる若者が、愛しい人と結ばれるまでのラブ・コメディ。

気が弱く貧しい農夫ネモリーノが美しい娘アディーナへの思いを告白するが、村に駐屯中の凛々しいベルコーレ軍曹がアディーナへ求婚してしまう。すっかり気落ちしたネモリーノのところに、いかさま薬売りドゥルカマーラ博士が登場。

「飲めばたちどころに恋が成就する愛の妙薬」を高い値段で買い求める。

そこから一騒動あるのだが、最後はハッピーエンドに。

 

他愛のない話である。だが、歌の力で魅了する。

「男って、こんなものさ。だって、好きな女性を手に入れたいでしょ。魔法の薬に頼ってもいいじゃない。」と思わせる楽しいコメディだ。二幕で見せる(聴かせる)男の真実「人知れぬ涙」は、素晴らしいアリアで拍手が鳴り止まなかった。(ライブビューイングは、実際の劇場の臨場感も伝えている)

 

とにかく、音楽、音楽、音楽。ソプラノの美しさにメロメロになり、テノールの甘さに酔い、バリトンの力強さに男の自信を取り戻す。歌声の美しさと迫力に圧倒される3時間だった。ソプラノは、アンナ・ネトレプコが茶目っ気たっぷりに演じ、テノール(マシュー・ポレンザーニ)バリトン(マリウシュ・クヴィエチェン)の恋敵が互いに聞かせどころを披露するが、なんといっても巨漢のいかさま薬売りを演じたアンプロージョ・マエストリが、圧巻の存在感で舞台を牛耳っていた。

 

上映は1週間、毎朝10時からの1回のみというのが、会社勤めには辛いところだが、ライブ・ビューイングシリーズは、2013年5月まである。ぜひ一度は体験してほしい。

2012.11.07

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万能グローブ ガラパゴスダイナモス 『この中に裏切り者がいますよ』

今、福岡で勢いのある劇団といえば、この『万能グローブ ガラパゴスダイナモス』だろう。

この夏には、『ガラ博』と名付けるイベントを開催。福岡で活躍する演劇人も参加して、実験的な作品を上演するという快挙を軽々とやってのけた。

満を持しての1年半ぶりの本公演。演目は、作・演出の川口大樹の得意とするスラップスティック・コメディ。期待して会場に駆け付けた。

(10月31日ぽんプラザ)

 

寂れた町の町おこしをたくらむグループが、テレビで取り上げてもらおうと、ツテを使って呼んだTV局のディレクターを待っている。

どんな話をでっち上げようか話し合っているところに、突然ディレクターがやってくる。しかも二人も!

えっ?来るのは明後日じゃなかった?どうして情報が漏れているの?

そこへ、西海岸帰りの元演劇部の先輩が現れ、公演が迫ってあせりまくりの現役演劇部が乱入、すきを見て恋の告白をする奴や、ビンテージのジーンズを選択してしまう霊能者、おまけにこの屋敷にはある秘密が隠されているという。

新しい登場人物が突然現れるたびに話が変わっていく、テンポとノリの良さ。 ズレてる会話に、合わない呼吸。

スラップスティックな要素が満載で、一気にラストまで突っ走る。 と思いきや、、、、。二重、三重に張られたどんでん返しが待っている。

 

この劇団の魅力は、「なんでもやってしまうこと」 だろう。 役者が少しでも迷ったり悩んだりしているとテンポが生まれない。

僕らオジサンから見たら若い! 若さが弾けてる。 コメディセンスも良い。 ホンもよく書けている。 あと足りないものは何だろう?

 

強いて言えばテーマ、ということか。

「裏切り者」の「裏切り」って、誰を誰が裏切ったの?って突きつけている。

この世の中、裏切られてばっかりだ。 信じられるのは自分だけ? あれ、自分が信じていたのは何だっけ?

笑いの中に、地下水のように横たわっているものを、焙り出してほしい。

それだけの力は、この劇団にはある。

ラストシーンを見て、そう感じた。

 

舞台初日で、これからどう変わっていくのか、楽しみだ。

 

えっ?裏切り者は誰かって?

11月11日まで公演中なので、会場へぜひ。

なんと、大阪・宮崎公演もあるので、11月25日まで上演中。

2012.11.05

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ミュージカル ジェーン・エア

松たか子が出色の演技!

原作は英国のシャーロット・ブロンテ。有名な作品なので、どんな文芸作品なのかと思って観に行ったが、予想は完全に裏切られた。もちろん良い意味で。 (11月4日 博多座)

 

主人公ジェーン・エア(松たか子)は、幼いころに両親と死別、愛情薄い伯母と従兄のジョン・リードのいじめにあう毎日だったが、なんと真っ向から対決する誇り高き少女。 寄宿学校に預けられ、うそつきのレッテルを貼られるが、そこで出会ったヘレン・バーンズ=(初めての友人)から、「人を赦すこと」を教わる。

人の愛情も知らず、不合理な仕打ちばかり受けていた少女が初めて、信頼できる人に出会った。やっと生きている楽しさを知ることができた。ところがヘレンは、伝染病で死んでしまう。「死ぬ」ってどういうことなのか。「生きていく」ってどういうことなのか。生涯にわたるテーマを抱える。

やがて大人になったジェーン・エアは、外の世界に出る。そこで、運命の人、ロチェスター(橋本さとし)と出会うのだ。

 

物語は、ジェーンの語りによって進行していく。

これは、一人の女性の魂の自立を描いた作品だ。

頑なな心を持っていた少女から大人へ。

謎めいたロチェスターへ抱くジェーンの気持ちの変化を細やかにふくよかに、松たか子が語り、演じ、歌う。その存在感!僕はそこにはっきりとジェーン・エアを見た。振幅の大きな役を、抑えた演技で表現していた。

 

「ジェーン・エア」が書かれたのは1847年。イギリスが大英帝国として最盛期を迎えていた時だ。

「ジェーン・エア」のような女性像は、さぞかしショッキングだったことだろう。

慎み深く礼節と因習を重んじる貴族社会に、「お金もなく、美貌もなく、身分もない」女性がひたむきで前向きな生き方をしていく姿は。

 

演出は、『レ・ミゼラブル』なども手掛けたジョン・ケアード。

ジェーンを丸ごと素のまま舞台に立たせ、語らせていく。舞台美術も効果的で、なんと舞台の上にも観客席を設えている。魅力的な脇役たちの配役も絶妙。もちろん生演奏だが、オーケストラの場所が最後まで分からなかった。

 

派手な仕掛けもセクシーなダンスシーンもないけど、芳醇なエンターテインメント作品。そうそう、橋本さとしが大人の味を出して渋い!

 

「危うく、このミュージカルを見ない人生だった」と悔やまないように!

11月18日まで博多座で上演中。

2012.11.05

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