第2回目は、博多座の演劇本部長を務める佐藤慎二さんに登場してもらいました。
大阪以西にある唯一の商業劇場として、今年15周年を迎えました。歌舞伎やミュージカルから、北島サブちゃんの座長公演まで、本格的な舞台が1か月単位で開催されています。一時は赤字報道され地元でも危機感が走りましたが、最近では自主製作作品の興行やプロデュース公演など経営改善の傾向も見えてきています。
開業から携わってこられた佐藤さん、どんなお話が伺えるのでしょうか。
仕事の動機は好奇心
水上 劇ナビインタビューでは、劇場のお話を伺う前に、人となりをお聞きしています。佐藤さんは、アイデアマンでいろいろな企画をすすめています。 最初は印刷の仕事をされていたんですよね。
佐藤 新卒で就職したのは印刷の仕事ですが、学生時代のアルバイトで世の中というのを学びました。博多大丸でお中元とかの搬出搬入や、催事場では子ども服を売ったり、サザエのおはぎを造ったり、バレンタインチョコレート売り場のチーフやケーキ屋の店長もやりました。大相撲11月場所が来たら、スポーツ新聞に記事をファックスで送ったり、地元力士の星取表を全部つけたりとか。いろんなことやってました。動機は、好奇心ですね。
印刷会社では、工場管理部門に入りました。コンピューターによる画像処理です。印刷物って4色で成り立つんですが、コンピューターでいかにきれいな画像処理をして発色させるか研究していました。
大濠高校から推薦で九州産業大学芸術学部に行ったんですが、推薦で入学したのは僕が初めてだった。面接のときに聞かれました。「君は何で大濠なのに九産大なんだ」(大濠は福岡大学付属大濠高校です)。「福大に芸術学部があったら福大に行ってました。」言ってしまって、「落ちたな」と思っていたら通ってた。
その頃から、山も登っていたし写真も好きだった。本当は絵が好きだったけど、絵の才能がないので代わるものがカメラになり、自分のうちの押入れを改造して写真を現像していました。おじいちゃんがそういうことやっていたので、DNAですね。とにかく創るのが好きでした。それで印刷の会社に入ったんです。
はじまりは企画書の提案から
水上 博多座に関わるときは派遣されたんですか?自分から手を挙げたんですか?
佐藤 博多座が創業するなら観劇の会員組織ができるだろう。そうなったら、ダイレクトメールを送るシステムを構築しようと考えたんです。たとえばお客様の名前が何万とあったら、それを博多座で入力するとオンラインで端末に届いて端末から印刷機に宛名がプリントアウトされる。そういうラべリングシステムを作りましょう。こっちで入力します。ちょっとした訂正はそっちで直してください。その企画書を作ったんです。
そのためには、博多座にもそういうことができる人がいりますよ。株主になって一人出向で入れましょう。そういうビジネスが成り立ちますよ。という企画書を書いて博多座の準備室に持って行ったんです。福博綜合印刷の役員会にかけてもらって、出向する人間の適正不適正を全部書いて出した。役員会が終わって部長が来て肩をたたかれました。「博多座で頑張れ」っていう話になった。それで出向になった。
こっちでコントロールしようと思っていたら、なんと自分が行くようになった。
その時がターニングポイントで、博多座に来なければ今はない、っていうことです。
佐藤 人生にはターニングポイントがあって、節目節目が来るんです。その時にどっちをチョイスするか、です。もともと営業じゃない人間が、色の説明をするときに営業について行ったら、営業じゃなくて君が来ればいい、ってお客さんに言われた。それで、印刷の色のことを説明できる人間を営業にしよう、という話で、会社で初めて現場から営業になった。営業になるのがひとつの節目で、次の節目で企画になって。企画を作ったから出向になった。そんな話です。何もなかったら今、工場で働いています。
仕事の流儀―楽しくするのが仕事
水上 博多座に来なければ演劇製作に携わっていない。演劇の仕事は楽しいですか?
佐藤 好きです。だから、楽しくするのが仕事だと思っています。楽しい楽しくないは、自分の感じ方だから、そこはどこに価値観を見出していくかという話です。楽しい環境は自分で作る。そういうことが僕のポリシーだから。芝居だけじゃなくて映画でもホテルでも同じだと思います。
それぞれの人がいかに楽しんで、一緒に働くスタッフが楽しんで、お客様にいかに喜んでいただくか。潜在的な消費者をいかにお客様にして、その人たちが「よかった」「ありがとう」って言ってもらえるかが醍醐味かな。
佐藤 学校で、同じ方向に机向けて、同じようにノートとって同じように先生の話聞くのがいやだった。CMで「レ・ミゼラブル」の音楽が流れているのがありますね。マラソンランナーが走って行って途中でバラバラになっていく。まさしくあれです。「人生はマラソンだ」「でもそうだろうか?」スタートして、ゴールはそれぞれですよね。節目節目でいろんな道がある。その場その場で、環境を自分で作って、いかに周りの人が幸せになるか。そのためには、強くならなきゃいけない。偉くなりたいわけじゃないですが、自分ができることを増やすために役割がある。みんなが困ったときに助けることができたらいい。お互いできることはお返ししていきたい。やるからにはみんなを幸せにしたいと思います。水上さんも僕に騙されて今に至る(爆笑)。でも、一生懸命ですよね。水上さんも努力されている。僕もいろんな企画を考えてみましたが、まだ実現にはいたっていないのが多いです。
(このインタビューは、4回に分けて公開していきます。次回は6月9日の予定)
2014.05.30
カテゴリー:劇ナビインタビュー
■■僕の人格を形成したもの■■
物心つく頃 神社の境内で祭りの時にやってきたドサ回り劇団のチャンバラ芝居
■■小学生時代■■
『ゴジラ』シリーズ
■■中学生時代■■
『小さな恋のメロディ』『ゴッドファーザー』
■■高校生時代■■
『仁義なき戦い』『サンダカン八番娼館』
■■大学生時代■■
年間に観た200本の映画
『子午線の祀り』は演劇体験の原点
『ブロードウェイミュージカル ウィズ』でミュージカル初体験
映画の道に進むつもりが子どもたちに演劇や音楽を見せる仕事に歌舞伎・文楽・能・狂言・落語といった古典芸能から人形劇・バレエ・ジャズ・オーケストラまで、あらゆるジャンルの舞台芸術を子どもたちに届ける もはや演劇のない生活は考えられません
でも演劇に触れたことがない人のほうが多いのが現実 はてさて、その魅力をどう伝えようか
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