劇ナビFUKUOKA(福岡)

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劇ナビインタビュー No4 特別版 イギリスの劇場の社会プログラム ④

キーシアターでのプログラム

今、私はとても小さな規模の劇場で企画を立てています。その劇場は二つ劇場空間があって、350席と112席の空間を持っています。キーシアターという劇場です。この劇場は公的助成金はほとんどゼロです。商業的な劇場として経営しています。

キーシアターはいろんな文化施設を運営するビバシティという機関の中の一つで、図書館もコンサートホールもアートギャラリーも、博物館も、そういった文化施設を一手に運営している機関です。

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私がこの劇場を経営するようになった時は、この劇場は地域住民とは繋がらないということで有名な劇場でした。

公的助成金をほとんど受けていないにも関わらず、私が劇場の経営をするようになってから、地域の人と話をしないといけないんじゃないか、と思い、地域の人と話すようになりました。

その時には、地域の人は、「ほんとに私達と話したいの?」という疑惑の目で見ていました。

最初は疑惑の目で見られていましたが、だんだん信頼感が生まれてきました。

ダンス劇団と共同して、学習障害のある人にダンスのワークショップを開くということをここでやりました。

1か月に1回、日曜日の午後は地域のブラスバンドが劇場のロビーで演奏しています。このバンドも新しい曲や、新しい楽器を使って、いろんなことを試せる形になっています。無料で提供しています。

地域のオーケストラも作りました。クラシックとジャズをミックスしたような演奏をします。

インド系の住民もたくさんいるので、インド系の地域のリーダーとも話をして、グジュラーティという民族のものを反映したものやダンスの企画、またボリウッド映画(インドの映画産業)を新しくプロジェクターを買ったので上映しています。

 

芸術評議会の新しい助成金の枠ができました。それは、地域で人々が創造的な作品を作る3年間出る助成金です。その助成金を獲得しました。

そこで、キーシアターでコミュニティのパネルを作りました。劇場が今からやることは、いろんな違ったコミュニティの人たちの中にブリッジリーダー(橋を渡すリーダー)を作って、そこでコミュニティのリーダーが話をして、今までこの劇場で行うことに除外されていたコミュニティの人たちも、この劇場でアウトリーチプログラムやワークショップ等、今まで届いていなかった地域のコミュニティの人たちに届くプログラムを作るようにしています。

 

<政策と実施戦略のために必要なもの>

衛さんは、「社会包摂のプログラムをどういうふうに経営と劇場の芸術政策に持ち込んでいくか」とおっしゃいましたが、私がこの劇場の経営監督に就任して、ここで芸術政策を打ちたてようとしたけれども、それは私一人ではなく、理事会のメンバー、管理職のメンバー、そういう人たちと一緒に劇場の方針を打ち立てました。それは、すべての劇場の管理職の人が同じ意識をもって、同じ政策を作らないといけないからです。

その政策ができた時点で、では、どういうふうに実施していくかという戦略が出てきます。

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その政策を作るときに、一体この劇場に重要なものは何かという相互理解が必要になります。その相互理解の中で必要なのは、いい作品を劇場で公演するということももちろんあります。と同時に社会包摂のプログラムを組み込むことです。

それには、社会包摂のプログラムを組むことが先ではなくて、こういった文化芸術から疎外されている人たちにどうやって疎外から芸術文化へ巻き込むかという、社会包摂が社会に必要だという、そのポイントがまず必要です。

そこで、社会包摂と文化芸術と二本の柱が必要だということを、すべての人が相互理解したうえで、そのあと、ではどういうものを提供していくのかという戦略の話に移るんだと思います。

 

来年の2月に世界劇場会議を可児市文化創造センターで開催しますが、ぜひ皆さんに見てほしいのは、可児市文化創造センターでは社会包摂及び地域の人を巻き込むという実践を実際にやっている劇場で、ずっと重要だと20年来言い続けて現在実践している劇場です。

その劇場で実践を見る機会があります。日本にもあることを実感してください。

 

<質疑応答から>

 日本でいう市民劇と、英国の仕方と、何が根底に違うのか?

日本の市民参加型との違いを説明してほしい。

 

マギー

 一つの例をお話しします。キーシアターのあるピーターバラという地域には5から6の地域住民の演劇グループがあります。ギルバータン・サリバンのオペラを創ったり、ミュージカルを創ったり、演劇を創ったり。そういう地域住民の舞台演劇グループです。その人たちはキーシアターを貸し小屋として借りてここで作品を発表します。

そういう地域住民の演劇グループは自分たちの中で演出家を使っています。たまにはお金を払ってプロの演出家を雇い入れることもあります。キーシアターはその人たちに舞台の技術に関してのことをヘルプします。基本はスペースを貸すということです。

 

一方で、英国の地域劇場は「制作劇場」です。ひとつのプロの作品、自分たちの作品を作っていく。大型の演劇を作るときには、プロの役者と地域のアマチュアの役者と両方を使う時があります。その時のルールがあって、地域住民およびアマチュアの役者さんたちはひとまとめで演出される。そういうルールがある。それはプロの役者の領域には入れないということなんです。

 

そういうコミュニティの役者の使い方もありますが、ドキュメンタリーシアターは、全く違うものです。作品は、プロの芸術チームが演出、編集、美術の全てをやり、役者もプロで上演。地域の人が観たら、自分たちの人生を作品で観る。その形がドキュメンタリーシアターです。

 

ウエストヨークシャープレイハウスを例にとれば、ユースシアターがあります。お年寄りの劇団が発足した時もあるんです。シェフィールドシアターやグラスゴーシチズンズシアターなどにも、ユースシアターがあります。

 

シェフィールドシアターは劇場自身がコミュニティのカンパニーを持っているという形です。地域住民のアマチュアの人の演劇の集団を作っています。

 

 

(講義収録編集 水上徹也 シアターネットプロジェクト 代表取締役)

 

 

世界劇場会議は、来年21314日に岐阜県可児市文化創造センターで開催されます。

世界劇場会議国際フォーラム「社会包摂と劇場経営」

講師には、マギーさんの他に、ジェイムス・ブライニング、ダン・ベイツが登壇します。文化庁関係者をはじめ、世田谷パブリックシアターの劇場部長の楫屋氏ほか、国内の論客も登壇します。

2014.08.15

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劇ナビインタビュー No4 特別版 イギリスの劇場の社会プログラム ③


ウエストヨークシャープレイハウスの社会包摂プログラム

e-wyp01.jpgのサムネール画像ウエストヨークシャープレイハウスの「ヘイデイズ」は初代監督ジュード・ケリーが25年前に作ったものです。

ヘイデイズでは、演劇だけに限らず、絵をかく、文学を読む、ディベートをする、フィットネスをする等、クラスが多様にあります。

現在、シェフィールド劇場でチーフエグゼクティブをしているダン・ベイツは、私のもとでウエストヨークシャープレイハウスで働いていました。その時に、ダンは「サイバーカフェ」というものを設置しました。ロビーの一角にコンピューターのコーナーを作ったんです。

まだまだ、コンピューターを使えるお年寄りの方はいなかったので、無料で、お年寄りがどうやったらコンピューターを扱えるものかを学びました。先生には、同じ教育プログラムを受けている若者たちが先生となってお年寄りにコンピューターのスキルを教えた。

そこで、コンピューターを使って、若者と老人との交流ができる。そういうコーナーをダンが作りました。

もちろん、ウエストヨークシャープレイハウスの活動は進化していますので、「ヘイデイズ」と「サイバーカフェ」だけで終わっているわけではなく、どんどん広がっています。

進化した例の一つには「ビューティフルオクトパスクラブ」というのがあります。もともとロンドンで始まったものなんです。それをリーズでもやろうということになって、身体障碍者、もしくは知的障碍者の方たちが集まって、ディスコを作って、そのディスコにハチャメチャなコスチュームで集まる、そういうことをやっています。

 


ただ、その根底にあるものは何かというと社会包摂の考え、社会のいろいろな人たちが共存していくという、そのコンセプトがウエストヨークシャープレイハウスの一番の価値観となっています。

 


  公的助成金が貰えるからやるのか?

では、社会包摂のプログラムというのは、行政が言っているからやるのか、行政から公的助成金が貰えるからやるのか、もしくは、貰っているからやらないといけないということになるのか。それとも、劇場が情熱をもってやりたいと思っているから、とにかく実施して、そして、助成金があとからついてくるのでしょうか。

 

ウエストヨークシャープレイハウスというのは、ほんとに一番すごい例なので、社会包摂のプログラムというのを助成金があるなしに関わらず、ずっと考えてきました。

社会包摂のプログラムを組み込まないといけませんという文化政策が出てきたときにはいろいろな問題が持ち上がりました。じゃあ、そういったプログラムをやるお金はどこから出てくるのか、とか。

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社会包摂という政策があるからやるのではない、補助金がついているからやらなければいけない、ではないのです。最初にあるのはその劇場の価値観です。差別があっていい、とか、社会的孤立があっていいとか、それをよしとする人たちには社会包摂の事業はできません。さらに、実現する情熱がなければ、それを事業にすることはできません。

 


  各地の芸術機関への広がり

ウエストヨークシャープレイハウス以外の劇場や文化施設でもこういった社会包摂のプログラムを政府が唱える前にやっていたところがあります。そこで、芸術評議会はそういった素晴らしいプログラムを組んでいる文化芸術機関を選び、その芸術機関の人が「うちではこういうことをやっています。」といって他の芸術機関に広めるようなことをしました。

 

文化施設内の優先順位はだんだん変化があったんですけれども、優先順位は単純に劇場に作品を見に来るお客様を増やすということではなく、実際市民が参加できるワークショップやプログラムを作って、その中で文化に触れる、芸術に触れるということがどういうことなのか、というのを、身をもって体験していくということをしていきました。

 

社会包摂のプログラムを持つ劇場は、きちんとした統計はわかりませんが、芸術評議会の定期的な助成金を受けている芸術団体は50前後。その劇場や芸術団体は社会包摂が劇場のDNAになっている。重要なことは、それぞれの50団体がみんな違った社会包摂のプログラムを組んでいますが、それぞれの地域で違うものです。地域のニーズが違うので、地域のニーズに合った社会包摂のプログラムを独自にみんな作っています。

 

掲載写真、上は「ヘイデイズ」。下は「ユースシアター」。いずれも、ウエストヨークシャープレイハウス

(続く)

2014.08.15

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劇ナビインタビュー No4 特別版 イギリスの劇場の社会プログラム ②

~文化芸術への参加

どういう戦略を立てて、そういう人たちを文化芸術に参加させたり巻き込んだりしたらよいのでしょうか。

劇場でやっている作品を観客が見に来ることではなく、どういうプロセスで文化芸術ができるのか、実際手を下して学ぶことができる、それが、教育プログラム、コミュニティプログラムです。

 

ギリシャ古代劇を考えてみます。古典の元とは、単純に人々が集まって、そこで何かが始まる。人々が一緒に交わる、そこで何かが始まる。人々が集まる場所、それがギリシャ劇の源でした。

 

<社会包摂のプログラム>

人を集めて、集めた人たちの中でインターアクションをしていくことが必要だと思います。

人々がインターアクションしていく場を提供していくのが、これからお話しする社会包摂のプログラムです。

 


  社会包摂プログラムを、国の制度が出来る前から行ったジュード・ケリー

たしかにブレア首相が社会包摂を唱え始めたのはいいことです。ところが、ブレア首相が使い始める前から、社会包摂が大切だと、そういった活動を情熱をもってしていた文化施設はありました。

私がウエストヨークシャープレイハウスに務めていた時はまだ、ブレアは首相になっていなかった時です。その時に、初代芸術監督のジュード・ケリーが、非常に文化業界の中で影響力のある人、常に意見を求められる人なんです。その方がウエストヨークシャープレイハウスで社会包摂を根本にしたプログラムを組んでいました。

そういう文化リーダーがブレアに影響を与えたという事実があります。

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写真は『ウエストヨークシャープレイハウス』 (リーズ)

 

声を大にして言いたいのは、社会包摂の企画をするところもあれば、逆に社会排除の企画をするところもあるということです。それは、法令で決まる決まらないという話の前に、そういったことを考えるビジョンと、つくるプログラムにどれだけ打ち込んでいくか。人間の情熱とビジョンが必要です。それは、社会包摂をする人が格差のある社会というのはよくないという最初の情熱やビジョンが必要だと思います。

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ウエストヨークシャープレイハウスでのプログラムの一つ「ヘイデイズ」の様子

 


  ピーター・チーズマンのドキュメンタリーシアター

社会包摂という言葉が政治的な言葉となって、法令となって、それに対して公的助成金が行われることになった前に、こういったことをしていた人の例をご紹介します。

それは、昔勤めていた、ストークオントレントというところにあるオールドビック劇場です。そこの芸術監督をしていたのは、ピーター・チーズマン。ドキュメンタリーシアターを作ることで非常に有名だった。ドキュメンタリーシアターとは何かというと、地域の人たちのいろいろな人生の話をストーリーにして、それをコミュニティの人たちを使って作品化するというものです。

この地域は労働者階級の多い地域で、炭鉱労働者もいれば鉄鋼場の労働者もいれば、スタッフォード社の鉄道を作る人もいる。ブルーカラーであり、労働者階級。その人たちの話。また、炭鉱労働者のストライキの話を妻の目から見て語る話。そういったドキュメンタリーシアターをたくさん作りました。

ドキュメンタリーシアターはプロの役者が地域に出かけて行って、地域住民にインタビューをするんです。例をとれば、鉄鋼工場が閉鎖される、それを防ぐような活動をしていた労働者がいました。そういう人たちのところに出かけて行ってそれぞれの経験を全部聞いてくるんです。一方で、その工場を閉鎖しようとしている政治家とか反対している政治家とか、そういう人たちのところにも役者が出かけていって、話を聞いてくる。それを作品にまとめる。その話を聞いてきて、できた作品は、プロの芸術チームが演出、編集、美術の全てをやり、役者もプロで上演。できた作品は、地域の人が観たらすべて「自分たちのストーリーがこういうふうにすべて作品になっている。」自分たちの人生を作品で観る。その形がドキュメンタリーシアターです。

このシアターは、ストークオントレントの地域の人たちに愛され、しかも「これは自分たちのものだ」って、誇れるもの、それを作りました。

(③へ続く)

2014.08.15

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劇ナビインタビュー No4 特別版 イギリスの劇場の社会プログラム ①

6月に行われた「英国地域劇場スタディツアー」(主催:世界劇場会議)に参加しました。

 

イギリス各地の劇場を訪問しました。

・グラスゴーシチズンズシアター  (グラスゴー)  人口56

・リバプールエブリマンプレイハウス(リバプール)  人口44

・ウエストヨークシャープレイハウス(リーズ)    人口72

・シェフィールドシアター     (シェフィールド)人口51

・カーブシアター         (レスター)   人口28

 

英国の地域でどのように演劇製作が行われているのか。

作品のスタッフやキャストは?

劇場と劇団とは一体なの?

観客はどのくらいいるの?

そして、劇場と社会とのかかわりは?、、、

などなど、質問を思い浮かべながら、イギリスの各地を9日間で巡りました。

 

各劇場の報告をしたいと思いますが、ツアーの最終日に行われたマギー・サクソン氏のセミナーが、今回のツアーの核となる社会包摂(ソーシャル インクルージョン)について解りやすく説明してくれていますので、4回に分けてセミナーの内容をご紹介します。

 

マギー・サクソン(クリエイティブ・コンセプト/キーシアター経営監督)

(イギリスの大規模なクリエイティブ産業に関わる専門家の中でも、もっとも経験豊富かつ成功している1人と評価されている。ウエストヨークシャープレイハウス経営責任者、チチェスターフェスティバル劇場経営総監督などを歴任)

 

司会(衛 紀生/岐阜県可児市文化創造センター館長兼劇場総監督)

今回のツアーのテーマは、劇場がコミュニティといかにリレーションシップをとっていくかということです。1997年のブレア政権の時ソーシャルインクルージョンユニットを内閣の中に設置しました。あらゆる施策に社会包摂という概念をいれました。

社会包摂というのはユニバーサルな社会を目指すということ。だれでもが生きる意欲を持って生きられる。どんな格差の下にいようが、どのような社会環境があろうが、生きる意欲を持って生きられる社会を作る、という考えです。

日本では、2011年に内閣で決定した方針の中に社会包摂という言葉が初めて入ってきて、それ以降毎年のように出ている。でもまだ、「何だろう」くらい。それを劇場の施策にダウンロードされているところがあまりない。

劇場法で、劇場はどんな役割をはたすのか、ということは、きわめて声高に言われるようになった。

じゃあ、イギリスではどうだったか。劇場経営にどのように反映されてきたのかということを、マギーさんにお話しいただきたいと思います。

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マギー

 

このセミナーに来ていただいて、ありがとうございます。またお会いできてうれしいです。

まず、社会包摂ということをどういうふうに皆さんに理解してもらうか。順を追って説明していきます。

 

 

1997年に、ブレア首相がパブリックフォーラムでこの言葉を使いました。その言葉をブレアは広めました。でも、ルーツはもっともっと昔からに遡ります。

 

 

 

 

<なぜ社会包摂というプログラムをするのか>

公的助成金を受ける劇場では社会包摂をしなければいけない、公的助成金は社会包摂をする劇場に与える、という制度ができました。そのことにどういうふうに劇場が反応していったかということをお話しします。

 

~社会包摂、社会不包摂、社会除外、社会排除について

私たちの住んでいる社会、地域社会、コミュニティというものを見てみると、その中には男女もいる、いろんな種類の人種もいる、宗教の違う人たちもいる、年代の差もある、障碍者もいれば健常者もいる。身体障碍者もいれば知的障碍者もいます。

それを、教育という分野でみれば、このような人たちをひっくるめて対応できるようになっています。教育というのは、有利な立場にいる人にも不利な立場にいる人にも、その両方に与えることになっています。

 

社会の中で有利な立場にいる人、恵まれた立場にいる人というのは、階級が良かったり、いいところに生まれた人、そういう人たちは文化にも恵まれています。

 

私を例にとれば、白人で、お金持ちではないが貧乏でもない、中産階級で、それ自体、恵まれた立場です。

そうやって育ってきて人生を生きてきたので、いろんな文化やいろんな演劇に触れる機会もたくさんあり、教育を終えた後もいろんな文化的なことに参加できたり、そういう生活を続けています。

 

一方で、文化的なものに触れることにできない人たちもたくさんこの国にはいます。

この国には、公的助成金を受けている文化芸術機関というのはたくさんあります。たとえば、ロイヤルオペラハウスもそうです。そこに足を運ぶのは恵まれた人たちが行くことになっています。

この恵まれた人たち、恵まれていない人たち、そのバリアがそこで生まれてくる。そこで、たまたま、恵まれない環境に生まれた人たちは文化芸術にアクセスがないという状況に置かれてしまうことがあります。

 

芸術機関は国民の税金で成り立っています。国に助成を受けている。そこで、その芸術機関が作るものが一部の恵まれている人だけにアクセスができる、というのはどういうことなんでしょうか。

 

~文化芸術から人を排除することとは?

最初の問題です。人間として、そういう文化にアクセスできない恵まれない人たちがいるということはいったいどういうことでしょう。

「いけないことだ」と、もし思ったならば、そのいけないことをどういうふうに恵まれない人が文化にアクセスできる状況を作って行けるのでしょう。

 

ひとつ、紹介します。私はノースハンプトンシャーという地域に住んでいます。そこで、ラグビーがアビーバという企業のスポンサーについている。ラグビーのプレミアシップで優勝しました。

その試合をテレビで見て楽しみました。でも、ラグビーのルールなんて知らないんです。

ゴールが決まったりすればすごく興奮した。自分の土地のラグビーチームですから。勝ち負けが決まらず延長戦になって、すごく興奮しました。

 

 

クリケットも好きです。クリケットを見に行くこともあります。

実は、学校の時にクリケットを練習していて、細かいことを覚えています。選手をしていました。夏にはイングランド対インド戦を見に行きます。

なぜ、文化に関してのセミナーでスポーツの話をしているんでしょう。

スポーツと文化を平行に考えて、お話ししたいと思います。

 

 

たとえば絵を描いたこと、お芝居を演じたこと、文章を書いたこと、そうしたことがない人がどうやって劇場やアーツセンターに足を運べるのでしょう。そういうルールがきっとわからないのかもしれないのです。

そういったアートに触れる機会がなかったということ、それがそのまま、文化に関連のない人生へと続いてしまうということです。そこが一番初めの問題です。

 (続く)

2014.08.11

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