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劇ナビインタビューNo5 ホルトホール大分 館長 是永幹夫さん その2

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仕事の「原点」わらび座時代

水上 ここでちょっと話がそれます。毎回その人となりを伺っています。こういう仕事に携わったきっかけは? 是永さんがわらび座に入られたのは何年ですか?

 

是永 1975年。29歳の時に入りました。わらび座に37年、大分に帰ってきて3年だから、40年前ですね。まず劇団の編集部からスタートしました。劇団の機関紙を、狭い機関誌ではなく、開かれた「文化の広場」的な月刊誌に変えることから始めました。最初は劇団内で少し抵抗もありましたが、私はいつも「時間が解決する」という哲学を持っていて平気でした。これだけいいことをやってんのに、なぜ狭いのかという疑問を、世間とのチャンネルを一歩一歩つくりながら、解決していきたいという情念が強かったですね。舞台にもっと笑いがあってもいいのにと思い、「笑いは力」という特集を組んでみたり、他の創造団体のいい取り組みをどんどん紹介したり・・・。わらび座のように民族伝統をベースにした歌舞団が、異文化圏と出会うとどんな発酵をするのだろうかとの興味から、国際部を勝手につくって海外公演を始めたり・・・。いまも続けている「資金調達」も海外公演時代に覚えたことです。その後、制作部長、全国公演部長、劇団代表を歴任。仲間とともに、「仕掛けてなんぼ」の劇団営業のシステムをつくり、特に北東北3県では、その県の総人口の5%の県民(数万人)の皆様が、一作品を一時期に一気に鑑賞するという公演形態を実現しました。岩手県とはミュージカル「アテルイ」や「銀河鉄道の夜」、青森県とはミュージカル「棟方志功」、秋田県とはミュージカル「よろけ養安」です。

 

水上 それはどんな作品なんですか?

 

是永 この作品は、鳥海山麓の院内銀山のかかりつけ医者で旅籠や経営者の酒好きの門屋養安の話。秋田県立博物館に所蔵されていた彼の日記を一頁一頁ずつマイクロフィルムに撮り、天保年間から戊辰戦争のあとまで33年間の古い日記をわらび座の民族芸術研究所が7年かけて解読して出版しました。出版から7年後、ミュージカル舞台にしました。日記発見から舞台化まで14年かかった。これが秋田県内で大ヒットした。

 

水上 すごいミッションですね。

 

是永 「地域発信・地域連携」型の舞台創造と運用を柱にかかげて各県の知事にお会いしてミッションを伝えるところから始めたんですが、北東北3県とも県庁あげて取り組んでくださいました。岩手県の場合は「いわて地元学」推進を県政の柱に据えていたときで、まさに「ミッション合意」の全県的な取り組みでした。岩手県内のミュージカル「アテルイ」公演準備で1年間で車で3万8千キロほど走りました。当時あった岩手県の12振興局と12教育事務所を全部訪ねて。

 

水上 行政との関係で公演を作ることの一つのパターンを産み出したわけですね?

 

是永 劇団代表として、劇団に入ってきた新人営業の最初の講義をいつもしていましたが、あの大トヨタが逆立ちしてもかなわないのは行政のラインだと具体的事例で話していました。行政のラインを活かせば「山が動く」瞬間はつくれるんですよ。

 

大分の可能性

水上 地域発信の作品の話になりましたが、それを大分ではどのように実践していきますか?

 

是永 私の代で実現しなくても、次の世代が、私が北東北で仕掛けたような「地域発信・地域連携」型の舞台創造と運用を、この大分県で挑戦してほしいと思います。そのための一歩一歩の取り組みを帰郷後におこなっています。大分の人間が大分の題材で、大分の人たちに届ける舞台をと期待しています。

幸い、海を隔てて、豊予海峡の対岸には「坊っちゃん劇場」が大奮闘しています。愛媛の企業とわらび座の共同経営の民間劇場ですが、いまや、全国的にも大きな話題となっていて、文化庁も支援しています。地元の行政・経済界・教育界が束になって応援している「奇蹟の劇場」です。大分県、愛媛県、広島県、高知県、山口県が参加して豊予海峡交流圏事業を実施していて、今年度の1月と2月に大分の音楽・演劇・伝統芸能関係者と「坊っちゃん劇場」との交流事業に支援していただくことになりました。大分県での郷土発信オリジナル・ミュージカル創造のための布石の事業です。

ふるさとに帰郷して仲間たちと動き、「大分市文化芸術振興計画2020」が策定されました。そのビジョンを受けて、大分市立の3館連携の「豊後FUNAI芸術祭」を新年度から始めます。この事業の趣旨は、(1)大分市の舞台芸術振興、(2)市民協働・市民参加、(3)文化施設とまちをつなぐ、です。時間はかかりますが、大分の魅力的な文化的コンテンツと歴史的ご縁のDNAを現代にかたちにしていきたいと考えています。

 

水上 3館というのはここホルトホールと?

 

是永 コンパルホールと能楽堂です。

 

水上 時間がかかるかも知れないと言われたのは音楽にしろ舞踊にしろ、文的資源・財産があっても、それを舞台化するのに時間がかかるけれども、そういったことも考えてやるってことですか?

 

是永 そうですね。大分市は、大航海時代にフランシスコ・ザビエルとイエズス会に出逢い、西洋演劇、西洋音楽、西洋医術、ボランティア発祥の地と言われています。「進取の気風」に富んだ土地柄です。大分から山口や長崎にキリシタン文化は広まった。2015321日、新しいJR大分駅前広場オープンの午後は、ホルトホール大分・大ホールで「ザビエル・サミット」が開催されます。ザビエルがお世話になった鹿児島市、堺市、山口市、平戸市、4つの都市の市長を大分市長がお招きして首長サミットを開催します。大友宗麟と高山右近の二人が数多くいたキリシタン大名の中でも最後まで「心の王国」をちゃんと持っていた。すごいのは宗麟が住んでいた大友館の隣に日本で最初のハンセン病患者の療養所を作った。ボランティアを領民から募っていた。そういう歴史的な縁、土地柄を大事にしたいですね。

ふるさと大分の文化的資源、魅力的なコンテンツ、人材と出逢い、一歩一歩かたちにしていきたいと考えています。そのためにふるさとに帰ってきたとの思いは強いです。

 

水上 わらび座は創造集団ですけど、ホルトホール大分は孵化装置ということで、大分に潜在的にあるものを集めている段階ということですか。

 

是永 ホルトホール大分自体が孵化装置になれるかどうかはこれからです。まだ開館して1年半。市民とともにつくる施設をまっとうすれば、ホルトホールでの出会いと交流からさまざまなお酒が発酵し、ここからさまざまな創造的なかたちが生まれると思います。

高校時代から民俗学者の宮本常一さんが大好きでした。私の人生は、「足元を掘れ、そこに泉が湧く」をミッションにしてきました。このミッションを徹底的に伝えたいと思います。

 

水上 わらび座時代にたざわこ芸術村の創設に関わられました。一団体が地域で実践して全国的な展開をしていったわけです。40年たって帰って来られて、色んな芽があってそれがどう化学反応を起こすのかを今頭の中でいろいろと考えられてる。大分のクリエイティブシティ構想なんかと含めると、文化産業を興していくということですか?

 

是永 わらび座に営業で入社する新人たちの動機として、文化産業として面白い会社、それに地域密着で面白い、その二つで選びましたという理由ですね。非常に明確な目的を持っています。「地の利」「天の利」「時の利」をさらに活かしてわらび座はこれからも展開していくと思います。ふるさと大分では、幸い「ホルトホール大分」という全国的にもまれな複合文化交流施設に関わっているので、その立ち位置をフルに活かして、大分のまちづくりにコミットメントしていきたいと思います。舞台芸術の世界で長く生きてきたので、やはり、文化芸術・アートで食べていける人たちを一人でも多くつくりたい、そのための「つなぎ手」となりたいと思います。

 

水上 クリエイティブシティ構想はいかがですか?

 

是永 「創造都市ネットワーク日本」に大分県と県都・大分市が今年度前半のうちに加盟しました。県と県都が揃って入ってるのは、兵庫県、神戸市に次いで大分県と大分市だけです。大分県は「国東半島芸術祭」の開催や、「県立新美術館」の開館など、「創造県」として発信しています。2020年東京オリンピックで「東京一極集中」がさらに強まることを懸念していますが、逆に2020年までに、2015年夏・秋の21年ぶりのディスティネーション・キャンペーンの活用、この前開催された「国民文化祭あきた・2014」の基本構想や企画に関わらせていただいた経験を活かし、一年前から大分県にも働きかけていますが、2018年に二度目の国民文化祭の大分県開催など、いくつかの「山場」を仕掛けていく動きのなかにいますので、「黒子」に徹して実現していきたいと思います。

もともと創造都市については1980年代後半にイタリアはじめヨーロッパの都市を訪ねるなかで感じていたことですが、秋田のわらび座時代に、大都市・政令指定都市先行型で推進されてきた日本の創造都市論にプラス「田園都市型」創造都市の必要性を、文化庁や理論的牽引者の佐々木雅幸先生に提言してきました。「田園都市型創造都市」の言い方はいまは「創造農村」と称されていますが、クリエイティビティのあるまちづくりは市民権を得つつあります。大分市の職員提案でスタートした「トイレとアート」の「おおいたトイレンナーレ」も、2015年夏が本祭だし、ぜひこの機会に大変貌中の大分市を訪ねて楽しんでいただきたいと思います。

 

水上 それにしても文化芸術はもちろん他のジャンルへの関わりもすごいですね。

 

是永 「多様な主体との協働」をどうつくるかが、これからの市民社会の試金石と言われています。文化はどこにでも関われるんですね。ふるさと大分には全国ブランドになっているだけでなく、唯一という優れものもたくさんあります。より良き社会を創りだそうとしている人たちを黒子になって応援したいですね。公立文化施設の施設予約管理システムやチケット予約管理システムで全国随一のレベルを販売している()オーガス(大分市)はじめ、ある分野で日本のリーディング・カンパニーになっている企業もたくさんあります。個人の仕事でも、「服は着る薬」の鶴丸礼子さんは、障碍者や高齢者の衣服製作のための独自の「鶴丸式製図法」を考案し、全国各地の人たちのための服作りに命をかけています。マグマのような志の高さと実現する技術のすごさと全身全霊の仕事ぶりには誰しも共感し、逆に大いなる励ましをもらっています。私もその一人ですが、各分野に、大分には魅力的な「推進エンジン」の人たちがいます。その人たちと出逢い、「つなぐ」役回りを「天命」にしたいと思います。

 

水上 是永さんの人脈ネットワークの根幹には、「共鳴」があるんですね。もっとお聞きしたいことが山ほどありますが、時間が来てしまいました。一応今日はここまでにさせてもらって、次回につなげたいと思います。ありがとうございました。

 

◆インタビューを終えて

是永さんは、多機能連携施設というフレーズを何度も繰り返されました。福祉・健康、産業、教育・子育て、文化、観光、情報、交流、などの多機能な施設を融合した「孵化装置」ということでした。新しくなる大分駅前のアクセスも活かしながら「市民の家」としてどのような魅力を発信していくのか、そして新たな「大分ブランド」の芸術作品を九州のみならず中国四国さらに全国へ発信していく施設になることを期待しています。

 

取材 水上徹也(シアターネットプロジェクト 代表取締役)

2015.01.12

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