劇ナビFUKUOKA(福岡)

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劇ナビインタビューNo5 ホルトホール大分 館長 是永幹夫さん その1

大分市は、2014年に「創造都市ネットワーク日本」に大分県とともに加盟した。企業・工場の誘致により発展を遂げてきた「新産都」都市、県都としての行政都市の性格のみならず、文化創造都市への取り組みを打ち出している。

2013720日に開館した「ホルトホール大分」もその拠点施設としての機能と街づくりの中核施設としての役割をもって、2015年春のオープンに向けて建設中のJR大分駅ビルに隣接して建設された。そのホルトホール大分の館長(統括責任者)として、是永氏が運営に携わる。是永氏は、秋田県に拠点を置く「わらび座」で長らく活躍してきた。わらび座は民族歌舞団として発足し、現在は劇団としてミュージカル制作に力を入れているが、自前の劇場を持ち創作活動を行うだけでなく、常設劇場、温泉施設やホテル・レストラン、工芸館、地ビール工房などを併設した「たざわこ芸術村」を運営している。その実績を買われて、氏の出身地である大分市で、新たに誕生した複合文化交流施設の運営を任された。劇ナビでは、地域からの文化の発信を行う施設として、九州の東の中核都市大分での活動を取材した。

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水上 是永さんは、秋田県で劇団わらび座の代表として長くかかわっていらっしゃいました。大分市は生まれ故郷だということですが、大分に新しく誕生した公立文化施設の責任者として着任され一周年を迎えられたところです。まず、大分の状況からお話を伺いたいと思います。

 

全国随一の多機能連携型施設

是永 大分市内は、いまハード面、ソフト面で一気に変貌中です。いままで大きなプロジェクトがなかったということもありますが、全国の都市のなかでも随一の大改革が進行中です。いま変わらなければ今後50年間このような好機はない、という危機感が業種や世代を超えてあります。

 

水上 JR大分駅ビルもかなりの規模になるようですね。

 

是永 JR博多駅ビルよりこじんまりとしていますが、屋上庭園が博多駅の1.8倍で、より市民に親しまれるつくりになっています。私の自論は、大分市の場合「JR駅ビル中心の回遊性のまちづくり」が生命線だということです。大分市は現在、福岡地所が仕掛け、大成功しているショッピングモール「パークプレイス」と大分の老舗のトキハデパートの郊外展開のショッピングモール「わさだタウン」はじめ、明野地区や挟間地区のショッピングモールの郊外展開型商業ゾーンになっています。このことは全国の中核都市にどこでも見られることですが、郊外ではない中心市街地に駅ビルを中心にしたもうひとつの商業ゾーンのコアをつくろうとしている。「商都復活」という理念ですね。

 

水上 そのなかでのホルトホール大分の立ち位置は?

 

是永 ホルトホールは複合文化交流施設ですけれども、その多機能性では全国随一の公共施設です。文化・教育・福祉・健康・産業・情報・交流の7分野が37,000平米の施設内で連携している。「21世紀は多機能連携の時代」と私は公言していますが、とくに「3.11」のあと、その考え方はますます大事になってきています。開館以来、全国各地からの視察が続いています。北は秋田県庁、秋田市議会、南は那覇市役所と全国津々浦々の自治体の視察、国省庁の視察が多いです。

ホルトホール大分のなかの多機能連携推進と同時に、新生・大分市の回遊性のあるまちづくりの促進装置・孵化装置だと考えています。そのための連携・連動の動きを進めることに心砕いています。

 

水上 ホルトホール大分の仕事へのかかわりきっかけは?

 

是永 いまから9年前に九電工本社のお誘いがありました。私が定年後にふるさと大分市に帰るという情報も含めて同社は持っていて、福岡で「顔合せ」があり、その春に同社の役員・スタッフが、わらび座が経営する秋田のたざわこ芸術村に泊まり込みで来てくださいました。同時に共同経営の愛媛の「坊っちゃん劇場」にも同社スタッフが泊まり込みで視察に行かれました。同社の動きは早かったですね。

私はいわゆる文化会館・市民ホールだけだったら受けるつもりはなかったんです。多機能連携施設だから面白いと思いました。それは地域と協働して展開している多機能で経営しているたざわこ芸術村の経験があったからですね。

ホルトホール大分は、市民ホール、市民図書館、中央こどもルーム、会議室、トレーニングルーム、健康福祉増進関連機能、障碍者福祉、ひとり親家庭支援の機能、保育所、市社会福祉協議会などなど、しかも目の前の芝生広場「大分いこいの道」(長さ444m、幅80m)と一体となった市民のためのリフレッシュゾーンの展開ができることへのワクワク感がありました。ホルトホール大分という名称は正式名称かつ愛称です。ホルトノキが大分市の木なんです。

 

水上 開館一年間の利用者が200万人を超えたとのことですが?

 

是永 開館初年度で年間208万人を超える市民の皆様に来ていただきました。すごいことです。すっかり「市民の家」になっています。開館2年目も200万人を超える予定です。三世代を超えた四世代の皆様がリピーターとなり、良く使ってくれています。ホルトホール大分の多機能の施設のなかで、一番の集客は市民図書館、次が市民ホール、そして17ある会議室です。

 

市民の家

是永 ホルトホール大分には3つのミッションがあります。まずひとつめは「市民の家」づくり、二番目に「回遊性」づくり、それから「大分ブランド」づくり、この3つのミッションで大事にしています。

まず「市民の家」。一日平均6300人が利用しています。

 

水上 毎日6000人ですか。

 

是永 特に土日が多くて4世代が集います。若い人がとても多いってのはほんとに私たちスタッフの背中を押してくれますね。まだよちよち歩きの子どもたちもご家族と一緒に良く来ます。我が家のように使ってくれています。

市民ホールにしても、舞台に立って発表する人たちがとても多く、表現活動の盛んな土地柄ですね。

 

水上 なるほどね。じゃあ稼働率もかなり高いんですね。

 

是永 平均90%超えてます。17室ある会議室も公民館並の貸室料なので、駅から2分の立地の抜群の良さともあいまって、多い日は一日で40団体ほどに借りていただいています。地域にはこんなにさまざまな団体があるのかと感心しますね。

 

水上 一階にケーブルテレビのスタジオも併設されていますね。

 

是永 大分県はケーブルテレビの加入率が75%で、九州7県の中でダントツです。大分ケーブルテレコムさんがホルトホール大分内に立派なスタジオをつくり、番組制作もしています。同社はわが国でも有数なケーブルテレビ会社で、地域貢献のミッションも高いです。開館に合わせて「市民チャンネル1」を開設しましたが、放送枠が満杯になって、今年度から新チャンネル2の「ホルトチャンネル」も開設してくださいました。県内のもぎたて情報や市民ホールのイベントの無料収録と全県放送をおこなっています。大分市出身の南こうせつさんが顧問をしているNPO法人かぐや姫の大島事務局長がディレクターになって、毎週のように県内の子ども神楽やキッズダンスチームの活動を放送しています。

 

回遊性のあるまちづくり

是永 二本目のミッションは「回遊性のあるまちづくり」。大分市ぐらいの都市だと、ピンポイントでも成り立つ大東京とは違い、とにかく「回遊性」をどうつくるかが生命線です。ホルトホール大分は幸い「情報文化交流拠点施設」の位置づけもあるので、「回遊性」を促していく格好の公共施設でもあります。目の前のJR大分駅ビルをコアとした回遊性のあるまちづくりに貢献する施設として、日々まちづくりのさまざまな団体の皆さんと動いています。ホルトホール大分がオープンして駅構内の「豊後にわさき市場」の売上が2割増えたという報告もいただいています。

 

水上 駅の活性化にも貢献しているんですね。

 

是永 JR利用者が増えていることは確かですね。列車の本数を増やすらしいです。

 

水上 まさに駅と一体ということですか。

 

是永 ちょっとした連携は日常的に実施しています。JRウォーキングの宣伝など、集客数がダントツに多いホルトホール大分で宣伝することでの効果があります。市内外、県外の団体の宣伝も、適合性があれば、できるだけチラシ等を置くようにしています。県都の情報文化交流拠点施設でもあるという使命ですね。

 

大分ブランド

是永 三つ目は「大分ブランド」です。大分の食材・食の魅力はもうブランドができています。他にも温泉県おおいたとかね。私の仕事は文化芸術のブランドづくりです。そのためには文化庁や総務省系の補助金とか、県・市の補助金などの支援もいただき、地元の皆さんとの連携で「文化芸術の大分ブランド」づくりを推進していくようにしています。

 

水上 具体的にはどのような事業を?

 

是永 全国的に高く評価されている事業の一つとして、大分県の民謡の活性化事業です。文化庁の「文化遺産を活かした地域活性化事業」の支援をいただき、一年目は大分県の代表的な民謡120曲の五線譜化をし、全五巻の民謡譜集を発行し、後継者育成、ふるさと教育や次世代教育に活用し、2年目は収載された120曲のCD化です。新年度の3年目は、その成果をもとに「ふるさとの唄を求めて」のテーマでの発表会です。この大事業は、萬謡会という民謡研究会あってこそですね。地元の魅力的な民謡コンテンツを半世紀以上の長い歳月かけて顕彰し発信している団体があることの強みと評価の仕事を手伝っています。

大分に帰郷して立ち上げた実行委員会の一つ「おおいた民謡・民俗芸能活性化委員会」の事業として一過性でない継続性のある方法をみんなでつくっています。

 

水上 今年度は舞踊支援にも力点を置かれるとか?

 

是永 ホルトホール大分開館年の前年度は、演劇支援に力点を置いて、地元の若手脚本家の書下ろし新作上演も含めた開館記念作品と40年ぶりの演劇「大友宗麟」上演を文化庁と総務省系の補助金もプラスして実施しました。「おおいた演劇活性化委員会」もそのために立ち上げました。今年度は舞踊支援に力点を置き、一つは「コンテンポラリーダンス・カルチャー」大分発信「ダンスパートナー」公演、もう一つは男子新体操界の雄、「Blue Tokyo」と地元大分のY’zカンパニーの安松良道氏の仕事との本格的なコラボレーション舞台「ムーブメント」公演です。大分には舞踊界も全国の第一線の仕事に劣らないレベルの皆さんがたくさんいます。大分の舞踊界の人的資源の魅力の再発見と顕彰の事業でもあります。

 

水上 「ダンスパートナー」はどのような公演ですか?

 

是永 コンテンポラリーダンス界の次世代の騎手の一人、山口華子さんの舞台を大分で3年前に拝見したことが企画の出発点でした。彼女は文化庁派遣で一年間ドイツにダンス研修留学した方です。ピナ・バウシュの薫陶を受けたドイツの舞踊家たちのもとで学び、帰国してすぐの舞台を大分で観たことが今回の企画のスタートでした。大分のモダンダンスの騎手・後藤智江さんたちと話し合い、山口華子さんを招いて、ワークショップをし、その成果も舞台で発表する参加型作品創造と、山口華子さんと国内外でコラボしているトモ・ディモイラ氏たち第一線の舞踊家たちの新作舞台も実現しました。トモ君のお母様は大分市出身で橘バレエ団のプリマ時代のヨーロッパ公演で、ベルギーのディモイラ氏と結婚され、トモ君が誕生したという地縁のある方でもあります。九州・沖縄一円からワークショップに参加され、またとないコラボレーション舞台が実現しました。

 

水上 「ムーブメント」はどのような舞台ですか?

 

是永 青森山田高校や青森大学の男子新体操で全国優勝常勝メンバーがエンターテイメント舞台に昇華していますが、以前から交流のある大分市のダンスカンパニー主宰の安松良道氏のオリジナル企画です。シルク・ド・ソレイユのアクターを送り出している男子新体操の「Blue Tokyo」メンバーを大分に招き、東京や大分でコラボしながら合同作品を創り発表しました。安松氏主宰のダンスカンパニーの中高校生のレベルはとても高く、クオリティが担保されています。この事業もやはり大分に魅力的な人的資源があったからこその事業ですね。日本の第一線と大分をガチンコさせる、というスタンスが大事だと思います。

 

(来週公開 「その2」へ続く。)

2015.01.05

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