③ ウエストヨークシャープレイハウスの社会包摂プログラム
ウエストヨークシャープレイハウスの「ヘイデイズ」は初代監督ジュード・ケリーが25年前に作ったものです。
ヘイデイズでは、演劇だけに限らず、絵をかく、文学を読む、ディベートをする、フィットネスをする等、クラスが多様にあります。
現在、シェフィールド劇場でチーフエグゼクティブをしているダン・ベイツは、私のもとでウエストヨークシャープレイハウスで働いていました。その時に、ダンは「サイバーカフェ」というものを設置しました。ロビーの一角にコンピューターのコーナーを作ったんです。
まだまだ、コンピューターを使えるお年寄りの方はいなかったので、無料で、お年寄りがどうやったらコンピューターを扱えるものかを学びました。先生には、同じ教育プログラムを受けている若者たちが先生となってお年寄りにコンピューターのスキルを教えた。
そこで、コンピューターを使って、若者と老人との交流ができる。そういうコーナーをダンが作りました。
もちろん、ウエストヨークシャープレイハウスの活動は進化していますので、「ヘイデイズ」と「サイバーカフェ」だけで終わっているわけではなく、どんどん広がっています。
進化した例の一つには「ビューティフルオクトパスクラブ」というのがあります。もともとロンドンで始まったものなんです。それをリーズでもやろうということになって、身体障碍者、もしくは知的障碍者の方たちが集まって、ディスコを作って、そのディスコにハチャメチャなコスチュームで集まる、そういうことをやっています。
ただ、その根底にあるものは何かというと社会包摂の考え、社会のいろいろな人たちが共存していくという、そのコンセプトがウエストヨークシャープレイハウスの一番の価値観となっています。
④ 公的助成金が貰えるからやるのか?
では、社会包摂のプログラムというのは、行政が言っているからやるのか、行政から公的助成金が貰えるからやるのか、もしくは、貰っているからやらないといけないということになるのか。それとも、劇場が情熱をもってやりたいと思っているから、とにかく実施して、そして、助成金があとからついてくるのでしょうか。
ウエストヨークシャープレイハウスというのは、ほんとに一番すごい例なので、社会包摂のプログラムというのを助成金があるなしに関わらず、ずっと考えてきました。
社会包摂のプログラムを組み込まないといけませんという文化政策が出てきたときにはいろいろな問題が持ち上がりました。じゃあ、そういったプログラムをやるお金はどこから出てくるのか、とか。
社会包摂という政策があるからやるのではない、補助金がついているからやらなければいけない、ではないのです。最初にあるのはその劇場の価値観です。差別があっていい、とか、社会的孤立があっていいとか、それをよしとする人たちには社会包摂の事業はできません。さらに、実現する情熱がなければ、それを事業にすることはできません。
⑤ 各地の芸術機関への広がり
ウエストヨークシャープレイハウス以外の劇場や文化施設でもこういった社会包摂のプログラムを政府が唱える前にやっていたところがあります。そこで、芸術評議会はそういった素晴らしいプログラムを組んでいる文化芸術機関を選び、その芸術機関の人が「うちではこういうことをやっています。」といって他の芸術機関に広めるようなことをしました。
文化施設内の優先順位はだんだん変化があったんですけれども、優先順位は単純に劇場に作品を見に来るお客様を増やすということではなく、実際市民が参加できるワークショップやプログラムを作って、その中で文化に触れる、芸術に触れるということがどういうことなのか、というのを、身をもって体験していくということをしていきました。
社会包摂のプログラムを持つ劇場は、きちんとした統計はわかりませんが、芸術評議会の定期的な助成金を受けている芸術団体は50前後。その劇場や芸術団体は社会包摂が劇場のDNAになっている。重要なことは、それぞれの50団体がみんな違った社会包摂のプログラムを組んでいますが、それぞれの地域で違うものです。地域のニーズが違うので、地域のニーズに合った社会包摂のプログラムを独自にみんな作っています。
掲載写真、上は「ヘイデイズ」。下は「ユースシアター」。いずれも、ウエストヨークシャープレイハウス
(続く)
2014.08.15
カテゴリー:劇ナビインタビュー
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映画の道に進むつもりが子どもたちに演劇や音楽を見せる仕事に歌舞伎・文楽・能・狂言・落語といった古典芸能から人形劇・バレエ・ジャズ・オーケストラまで、あらゆるジャンルの舞台芸術を子どもたちに届ける もはや演劇のない生活は考えられません
でも演劇に触れたことがない人のほうが多いのが現実 はてさて、その魅力をどう伝えようか
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