<コンセプトは「観る・創る・育つ」三つのミッションにチャレンジ>
水上 さて、お話は北九州芸術劇場に移ります。劇場は2003年にオープンしました。
津村 オープンの2年前から関わりました。キャパ数も決まっていました。基本設計は終わって、実施設計がはじまっていたころです。本来なら設計になかなか口を挟めないですけど、そうとう挟ませてもらいました。(笑)これじゃあ、市長が言われている演劇専用ホールが成立しないですよ。複合施設としてのデメリットを克服するにはどうしたらいいですよ、等々です。
一番大きく変わったのは小劇場ですね。ここが一番メインになるから、なんとか変えてほしいと提言しました。
市長から言われていたミッションをふまえたうえで、どうコンセプトをつくっていくのかがオープン前の時期です。「観る・創る・育つ」というコンセプトです。
正直自信なかったです。3つの大きな車輪を同時に動かすって、これはちょっと無理でしょ、って思ってました。それも北九州で。演劇という文化はあったんですけど、劇場という文化はなかった。すごく大変だったですね。精神的にも怖かった。おまけに福岡の知人から北九州ではチケット売れないでしょ、って相当脅されていましたので。どうなるんやと思いましたね。
津村 うちのスタッフに聞くとオープン1年目の記憶がないというんですね。(笑)僕も正直あんまりないです。記憶ほとんど皆無ですというスタッフもいました。毎日がすごいスピードで過ぎていく、あまりの忙しさに。
三つの車輪を同時に動かすというのがそもそも無理で、財団法人地域創造で全国の劇場を見せてもらっているという仕事柄、この車輪を同じだけの荷重で同時に動かしたのは、きっと日本で最初ではないかなって思います。。そこは自負しています。
<レパートリーは日本では劇場はできない>
水上 「創る・観る・育つ」三つ全部聞きたいですが、僕は核になるのは、「創る」ことだと。また北九州のような地域にとっては、劇場に足を運ぶという文化をどうやって作るか、だと思うんです。
津村 創ることに関しては、僕もタッチしてきましたが、能祖 將夫さんにプロデューサーをお願いしています。
全国に打って出る作品と、地元できちんと作る作品、このふたつはきちっとやっていきましょうということですね。日本はレパートリーシステムとしての著作権が海外とは違うんです。契約をきちっとしない限り劇場は著作権が持てない形になっているんです。だから、レパートリー化はすごく難しいですね。プロデュース作品を作った場合、プロデュースをした劇場が最も権利を持てない法的システムになっているので、なかなか難しい。
クオリティの高い作品をこの劇場の財産として貯めていく。そのことをやろうと思うと、全国のアーティストの協力が必要ですし、向き合わないといけない問題がいくつも出てきます。「北九州芸術劇場が九州にできましたよ。これだけのクオリティのものを担保しますよ。レパートリーとして持っていきます。」そういうことを言えることは、この世界ではすごく大きな仕事なんです。
水上 そのとおりですね。
津村 ということで創造事業は、劇場としての財産を作っていこう、そのことが一つ。もう一つは、優秀な演出家に北九州にレジデンスしてもらったり、地元の作演出家も含めて、地元で作品を作っていく、二つのベクトルを持って「創る」ことをこの劇場で具現化していく。劇場って、そのことができなければ、「観る」ということにも「育つ」ということにもベクトルが波及していかないんですね。そのことはきちっとやっていこうということです。
津村 三つの要素の順番ではないですが、水上さんが言われた通り、「創る」ということは、事業の中の中心的な核ではある、と思います。プログラムでは、僕も何作かは創りましたが、今のプロデュース公演は能祖さんにお任せしています。役割分担では、鑑賞事業=「観る」ということを僕が責任を取っています。1年間やると、なかなか「創る」ことにタッチできないんです。
また、プロデュース公演をすると、「育つ」ということにも関わります。
「観る」と「育つ」は僕が中心に回し、「創る」は能祖 將夫さん。そして館長として劇場の経営は僕が責任を取る、そういう形で二人でやらせていただいています。
<地方のメリット>
津村 一方で、一般の方からの視線でいうと観ることも核にしていかないといけない。
劇場にお客さんを集める、劇場を認知してもらうには、強い作品を、皆さんが観たいと思っていただいている作品を持ってきてこそ、なので、それを吟味しましたね。
どういうバランスで、大ホール・中劇場・小劇場の作品をブッキングするか。番組を構成していくか。そうとう考え話し合いました。
手前味噌ですが、外から見てバランスが取れている演目になっているんじゃないかと思っています。東京だとこのバランスが取れないんですよ。
地方のメリットを最大限生かしていると思います。
北九州芸術劇場ってどういう劇場ですか?って質問されたら、「演劇を核にした公共劇場としてはそうとうバランスのとれた劇場」だと言えますね。
注目を集める作品をすべて公演するのは難しいですが、今一番旬なもので大中小の劇場にあわせた演目を散りばめることができるのは、じつは地方の劇場のメリットではあるんですよね。
津村 大ホール演劇は佐藤君(佐藤和久:開館時の広報宣伝課の課長・劇ナビ開設にも関わりながら2010年に癌のため逝去)がホリプロにいたことが幸いしました。。毎年シェークスピア作品を中心にした蜷川作品は、彩の国さいたま芸術劇場とホリプロが作品創りを行っているのですが、蜷川幸雄さんに杮落し公演のひとつをお願いし、来ていただいたのですが、その時に蜷川さんが、劇場を惚れて頂けたのが大きかったですね。
<スタッフ力を育てる>
水上 演出家が、劇場を気に入ったんですね。自分の作品を表現する場所として。
津村 大きなカンパニーのもの、テクニカル的にも制作的にも劇場が力を持っていないとこなせないものを具現化するのは、スタッフ力を上げないとできない(もちろん、小劇場が簡単であるとは言いませんが)。まず、スタッフ力をどうアップさせていくか。そのことから始まりましたね。
5年目には、地方の劇場として、主要なカンパニーが安心して来られる劇場のトップになったと思います。
今は、全国にツアーを回られている団体も、「北九州芸術劇場に着いたらホッとする」と言っていただいています。創ることと観ることのなかで、多くのアーティストと向き合い作品を創るという力を全スタッフが持っている。経験の積み上げが生んだ結果だろうなと思いますね。そうやってスタッフも育てる。アーティストも育てる。観客も一緒に育っていただくという仕掛けはしています。そこから波及して、子どもたちの育成のため、障碍者の社会参加のため、というカリキュラムを組んでいける状態になったのは、全体が一つになれているからだろうと思っています。
水上 とても大切なことですね。
津村 広報がやってくれている情報の発信がベースになっているんですが、関わってくれた表現者側、演出家や俳優、スタッフがみなさん、口コミで広めて言ってくれている。
3つの車輪をなんとか転がせたと思います。今、順調に回っている。そのことが評価されて、文化庁の特別支援劇場に採択されました。
<文化庁特別支援劇場(※)として>
津村 九州・中国・四国地方で、文化庁の特別支援劇場に採択されたのは北九州芸術劇場だけです。北九州の事業と運営がこれから地方の劇場のサンプルにされるようになれば嬉しいですね。
※「劇場、音楽堂の活性化に関する法律」(劇場法)の制定に伴い、今年度実施する補助事業「劇場・音楽堂等活性化事業」。この中の「特別支援事業」として全国トップレベルの15の劇場・音楽堂が採択された。5年間、支援を受けて様々な事業を行う。」
水上 全国で15劇場が採用されて、そのエリアで北九州の1か所ですか。
津村 首都圏に固まっていますね。
※採択された劇場と地域:関東⑦(さいたま芸術劇場・世田谷パブリックシアター・東京芸術劇場・サントリーホール・神奈川芸術劇場・ミューザ川崎・水戸芸術館)、中部④(静岡県舞台芸術センター・新潟市民芸術文化会館・石川県立音楽堂・可児市文化創造センター)、近畿③(びわ湖ホール・兵庫県立芸術文化センター・兵庫県ピッコロシアター)、九州①(北九州芸術劇場)
水上 責任重大ですね。
津村 責任重大で重たいです。(笑)
<九州でのネットワークは次の課題>
水上 拠点劇場の話も出ましたが、ネットワークのことをお聞きします。
全国でもいくつかの劇場と提携され、作品のクオリティを担保に、北九州芸術劇場のブランド化を図られてきたと思います。
津村 作品のクオリティを保つこと。「ルル」「ファウスト」「地獄八景」「錦鯉」等、全国の劇場を回ることで、ブランディングの戦略はくみました。「北九州芸術劇場プロデュース」として、全国へ発信しようと北海道から仙台、東京、長野県の松本、名古屋、大阪、岡山、広島などで公演しました。。
水上 九州のエリアの劇場とのネットワークは考えていらっしゃいますか?
津村 次の課題だろうと思っています。ただ、何を持ってネットワークというのか。
作品を回せばいいんでしょ、といった印象が昔はあった。でも、実は作品を回すというだけでネットワークはできないです。
それぞれの劇場のスタッフがきちっとわかりあい、作品だけではなくて、劇場の環境も含めた形でどうやって結びついていくのかがないと本当の意味のネットワークとは言えないんじゃないでしょうか。
津村 もちろん作品を回していく意思はあります。売り買いで終わっているのではネットワークにならない。どういうネットワークを構築していくか考えている最中です。
ただ、責任ある立場の劇場にはなりましたので、いろんな劇場からの相談や研修は受け入れています。
<研修制度や劇場間サポート制度>
水上 どんな研修制度があるんですか?
津村 研修事業を年1回、テクニカル系と制作系で開いています。九州中国四国エリアに情報発信してホールの方だったらどなたでも受けれる研修会を毎年やっています。
その他、オープン前の劇場のスタッフが研修を目的に何か月か入る、受け入れ態勢もあります。
作品を制作していく場合や海外作品の初演などは、うちで最初に作品を立ち上げる。そうすると、スタッフが長時間付きますね。最初の段階でいろいろと調整が必要ですから。そのスタッフが次のホールまで行ってちゃんとテクニカル的なサポートやスタッフが少ないホールに対して公演を制作するサポートといったことも行ったことがあります。今後、どういうネットワークが考えられるのか、ネットワークの意味をお互いがどう理解して組んでいくのか、考えていこうと思っています。
<二つのパターンのネットワーク>
津村 ネットワークには、二つパターンがあると思います。
一つは「予算が少ない。スタッフも少ない。でも事業をやりたい」劇場に対して、我々が何らかの協力をやれるネットワーク。もう一つは、同じレベルの劇場同士が組んでいく、という二つのパターンがあると思っています。
津村 今までも、埼玉や世田谷等と組ませていただいた。これまでも作品を協力して成立させていくネットワークはやって行かないといけないと思いますが難しいです、ネットワークは。作品だけが中心になっちゃうと劇場間のネッワークというのが、なにを目的にしているのかが見えなくなってしまいます。そういう意味でも劇場同士が多様な考え方をしていかないといけないと思います。
<オリジナル作品の共同制作>
津村 作品を制作するとき、共同制作と言う形で制作する場合があります。お互いがスタッフを出し合い、同等の予算を出し合いというところまで創れればいいんですけど、なかなかそこは難しいですね。どうしても、そのようなレベルのものを創ろうとなると現場が東京になりますから。
特に役者をそろえようと思うと、東京を稽古場の中心にしないとどれだけ経費があっても足らないですね。そうなっていくと、東京が中心になっていきますので、うまくお互いの考えが合致しない。どうしても東京の劇場が作品を創ってくれて、こちらが公演の仕方を考えるという話になります。
水上 そうか、そういうことですね。
津村 リリー・フランキーさんの「東京タワーオカンとボクと、時々、オトン」という作品を共同製作しましたが、稽古は東京でやるしかないんですよ。あれだけの役者さん達をこちらに連れて来て稽古を積むなんて、無理です。その代わり、加賀まりこさんがこちらに来て、リリー・フランキーさんが住んでいた地域の取材をするときには、うちの劇場が全面的に協力をして、ある種の役割分担をしていました。
それから、北九州で初演を開けることにしました。初演を開けるというのは、準備に日程がかかる。そこをうちが受け取りましょう。そういう形ですね。
役割分担をどうしていくかということにはなっていくと思うんです。
水上 東京は突出していますからね。そんな中、北九州は率先して創ってこられましたが、九州というエリアでオリジナル作品を創造していく可能性はあると思いますけど。
津村 うちの劇場だけ良ければいいとは、どのスタッフも考えていないので、いろんな劇場から、相談があれば、必ず応えていこうと思っています。逆にうちから提案をさせていただいたり、協力依頼をすることもあります。
九州圏内で何かを一緒にやっていければいいなとは思っています。
以下(2)に続く
2014.04.07
カテゴリー:劇ナビインタビュー
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でも演劇に触れたことがない人のほうが多いのが現実 はてさて、その魅力をどう伝えようか
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