北九州芸術劇場は「観る」「創る」「育つ」「支える」という4つのコンセプトを元に様々な事業を行っています。
「Re:北九州の記憶」は「創る」にあたる創造事業で、市制50周年を迎えた2012年度から始まって11年目です。
記録は写真や書籍で残っていきますが記憶は消え去っていってしまいます。
個人の中に眠る記憶を演劇的な手法を用いて残していけないか、という着想のもと、本事業は立ち上がりました。
今回、この事業が始まって以来携わってきた内藤裕敬さん(脚本・構成・演出)が新作を手掛けます。
また、10年間の集大成として5年ぶりの本公演、そして東京公演を実施します。
製作発表会見では、内藤裕敬さん、穴迫信一さん(ブルーエゴナク)、坂井彩(じあまり。)、出演者の皆さん、吉松寛子さん(Re:北九州の記憶プロデューサー)が登壇しました。
Q.これまでの10年間、本企画の構成・演出として携わっている内藤さんにお伺いします。「Re:北九州の記憶」のオファーを受けたときの印象はいかがでしたか。
内藤さん
「ずいぶん前です(笑)
22年前、この劇場ができる前からワークショップを実施して、2年に1度くらい作品を作りに来ていました。それで何年目かにこの『Re:北九州の記憶』の話を頂きました。
ここ(北九州芸術劇場)は公共ホールですから、芸術文化振興、観光、教育といった様々なミッションがあります。
公共ホールが行う自主事業の演劇作品としては、地元に密着した企画であること、地元の幅のある世代の交流を生む企画であること、作品として舞台で上演されることによって普段は劇場に舞台へ足を運ばない方々も友達と一緒に来てくれたり、年々観客層と人数が増えていくこと。そうした複合的な面から公共事業としてパーフェクトな企画だなと最初に感じました。
『Re:北九州の記憶』は、地元の劇作家が高齢者の方にインタビューするところから始まるわけですが、演劇ですから、お話を聞いて、テーマを感じるようなモチーフを劇作家が自分のフィルターを通してオリジナルのアレンジを加えて作品に仕上げるという事がとても大切な要素になります。過去と現在の要素が融合して、この現代だからこそ輝くようなストーリーになっているかがとても大事なことだと思いまして、それを地元の劇作家・役者の皆さんを中心に創作する、こんなにもすべての要素を網羅したパーフェクトな企画はないです。ただやるのは大変だなと思いました。
お芝居ですから、基本的には誰かに見せるのを前提に作るわけで、自分たちが満足したら素晴らしい作品でははなくて、客席で何か生まれていかないと何かが伝わったということにならないので、そこまでのレベルで完成させることができるかどうか、できたらすごいな、と思ったのが最初です」
Q.これまでの「Re:北九州の記憶」の創作過程にも触れさせてください。普段の創作の過程と違う工程を踏んだ面白さはどういうものでしたか。
穴迫さん
「高齢者の方と会って取材するというのは劇作とは違う技術。高齢者の方のお部屋に行って、におい、生活感とかを含めて、戯曲にどうやって吸収するか考えるというのは演劇の力にそのまま関わっていくんだと分かったのも取材型の創作を続けられたことのよさの一つです」
坂井さん
「インタビューを受けた方の思いと自分の思いが重なるところを探して、インタビューさせていただいた方だけではないし、自分だけでもない、合作のようなところを目指して執筆をしていったと感じています」
Q.「Re:北九州の記憶」は今年で11回目を迎えます。振り返ってみていかがでしょうか?
内藤さん
「そもそも最初から10年やると決まった企画ではなかったです。でも作家の頑張りがあったし、インタビューされる方が増えてきましたし、地元密着型の話だし、知り合いの知り合いの話が飛び出したりして、どんどん、じわじわ広がっていった。それが10年続いた理由じゃないかと思います。この後15年20年続けるべき企画なのかもしれない、という気がしています」
Q.内藤さん、今回の新作について構想や創作にかける思いについて教えて下さい。
内藤さん
「『Re:北九州の記憶』はこれまでに89作書かれています。思いのほか傑作が多いです。その中でも興味深い作品を個人的な判断で12~13作品チョイスして、絡めあいながら一本の作品に仕上げられそうな要素をピックアップしました。それを半分くらいの7作品に絞りました。これをうまく構成しながら私が新しく書く部分で一本にまとめていこうというのが今回の作業です。私が書く部分も完璧にオリジナルを書くのではなく、作品としてチョイスしなかった部分にあるエッセンスを膨らませて書いていきます。全体をまとめてなおかつ新しく面白く、ノスタルジーに偏って終わるのではなく、現代性が担保できるような作品にしたいです」
Q.今回のタイトル「君といつまでも」について教えて下さい。
内藤さん
「人の個人史というのはその方が亡くなれば消えてしまう。その人の孫でもなければ聞けないような話がたくさんあります。おびただしい数の記憶が取り返しのつかないことになっている。しかし、そういうもの一つ一つが街の中では生きているというのを実感します。消えてなくなってしまったのだけど、そこかしこに残っているものに囲まれて生きているな、と感じます。昔とは縁を切った現代がここにあります、みたいなことはありえない。そういう意味で、君といつまでも、という感じで暮らしていると思うんですよ。作品全体をご覧になって、君とはどの君か、お客さんが自由に楽しんでいただけたらと思います。さまざまな君といつまでも暮らしていけるんじゃないかなと」
Q.現時点で可能な範囲のあらすじを教えて下さい。
内藤さん
「お話は時系列的に並んでいて、戦後まもなくから徐々に現代へ向かっていきます。いまのところ若戸大橋ができるまでのお話です。取材でできた名作を並べています。今ご存命の方が過去をどういう風に受け止めて今を生きているのか、現代という視点を置きながらこれまでの名作をつづりたいという発想を持っています。中心になる5つのエピソードはもう稽古に入っていて、どういう現代の視点を持たせて一本にまとめ上げるかは稽古を観ながら決めます。いい作品にしていきたいと思いますので、どうぞご期待ください」
Q.地域性の強い作品と聞いていたが、東京公演を行うきっかけや意義などをお伺いできますか。
吉松さん
「この事業を始めて数年経ってから、北九州だけではなくいろいろなところで公演して欲しいというお声はいただいていたのですが、なかなか踏み切れずにいました。10年経って作品は89作品、インタビューを受けて下さった方は73名になりました。10年間やってきたことを東京できちんと発表したい思いがあり、東京公演が実現しました」
「君といつまでも~Re:北九州の記憶~」は2月23日(木祝)~2月26日(日)北九州芸術劇場小劇場で、
3月3日(金)~3月5日(日)東京芸術劇場シアターイーストで公演されます。
公演記事はこちら
https://gekinavi.jp/theater/2022/11/r4kioku/
お問い合わせは北九州芸術劇場TEL 093-562-2655(10:00~18:00)まで。