劇ナビFUKUOKA(福岡)

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仲間由紀恵主演の「放浪記」は、現代に林芙美子を甦らせる好舞台!

ここのエンタメブログへの観劇レビュー、実に2年ぶりとなってしまいました。

ずいぶん怠けていたものですが、このところゆっくりとレビューを書く暇がなかった。というのは言い訳ですが、久しぶりに良い舞台を観ました。

博多座1月公演「放浪記」です。

 

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「放浪記」と言えば森光子、森光子と言えば「放浪記」。まさに森光子の当たり役であり、森光子の代名詞となった舞台だ。今回、博多座での仲間由紀恵版「放浪記」を観て思ったことがいくつかある。

まずは、森光子は林芙美子そのものであったということ。実は筆者は博多座の舞台を観た時はそれを感じなかった。森光子自身、実力がありながらもスポットライトがあたらなかった時期があり、後に「放浪記」の主役に抜擢される。自分の実人生と重なるような林芙美子の半生を演じることで自らを解放し観客の共感を得た。まさに水を得た魚の様に、その後、華やかに活躍する。

しかし、森光子の「放浪記」を始めて博多座で観た時は2003年8月。実に初演から42年が経ち森光子は80歳を過ぎていた。上演回数はすでに1500回を超えるころで、「森光子の噂の名舞台を観れる」ことが嬉しかった。
もちろん、森光子の演技は貫録十分で、作品の完成度も高い。だが、「放浪記」で演じる林芙美子は10代後半から40代。リアリティよりも型で見せる演技となっていた。だから、演技は楽しんで観たが、林芙美子の人生と森光子が重なっていなかった。

そのことに気づかせてくれたのが、仲間由紀恵だ。
仲間由紀恵の林芙美子は若い。カフェの女給を、男に裏切られ続ける女性を、苦闘する小説家を、同世代の女性として、活き活きと演じている。そして、明るい。
林芙美子の役と人生を重ねた森光子と違い、仲間由紀恵は舞台・映画・ドラマと代表作をいくつも持つ国民的な女優だ。演技は折り紙つき。だが、「放浪記」は「別物だった」と思う。それほど作品と演者のイメージが重なっていたからである。その不安を払拭する作品に仕上がっている。
共演陣とのアンサンブルも良い。日夏京子役の若村真由美、安岡信雄役の村田雄浩、白坂五郎役の羽場裕一など、全編に登場するメンバーの役の押さえ方、母役の立石涼子の尾道のシーンでの演技、木賃宿での絵描き役の永井大、福地貢役の窪塚俊介も印象に残った。新しい「放浪記」メンバーが生まれたようだ。

林芙美子は、大正末期から戦争を挟む時期に活躍した。子ども時代は北九州を転々とし、貧しい時代を送った。戦争へ向かう重苦しい時代の中、林芙美子の小説が大衆の心を癒す。「貧しいが清らか」などと薄っぺらの言葉ではなく「貧しさ」の後に「業=欲」を肯定する逞しさ。
この舞台は、今を生きるすべての人が、自分の人生を肯定できる。決して、「貧しさからの成功物語」ではない。
失恋しても、騙されても、食べるものがなくてひもじい思いをしても、会社をくびになっても、それでも生きていける。卑怯な手を使っても、言い訳しても、生き延びる。そんな、「人間の業」を肯定する。人生を生き抜くことがどれほど厳しいものか、そして人生を貫いたとき、どれほど尊く美しいか。そんな生き方を教えてくれている。

「苦しみながらも生きていくのよ。休まず働き続けるの。」
林芙美子の生き方を描く舞台「放浪記」を通して、林芙美子が、森光子が、そして仲間由紀恵が、僕らにそんなメッセージを投げかけてくる。それは苦しくも愛おしいわが人生。生きる勇気をもらえる舞台だ。


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博多座の「大入り祈願鏡割り」(1月5日)にて/撮影:大工昭

2016.01.21

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