劇ナビFUKUOKA(福岡)

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劇ナビインタビューNo1 北九州芸術劇場 館長 津村卓さん 第2回(2)

<劇場文化が街に根づく時>

津村 最近は、演劇やダンスいわゆる舞台芸術をツールに使った街の活性化が徐々にやれるようになってきた。それだけのスタッフ力がついてきたということだと思うんです。

商店街と組んで企画をしたり、TOTOさんと組んだり、安川電機さんのスタッフの人にワークショップに来てもらったり、モノレールでお芝居したりと「一緒に街を面白くしましょう」という動きが23年くらい前から始まりました。

津村 何年か一緒にやっていくことで京町銀店街さんは、ご自分たちでやれるようになったんです。昨年ダンスを300人くらいでやったイベントは、京町銀店街さんが主催でやられた。

水上 街にも劇場のノウハウが伝わっているんですね。

津村 劇場を核にどんどん広げていく作業ですよね。地域の企業さんと組んで、どんな面白いことができるか。これから、どう広げていくか。

今までは間接的に観光だったのが、これからは直接的に観光と結びつくためにどういうことができるのか。派手に「何万人を集める」ではなく。「北九州って面白いね」っていう人が50人単位でできるみ企画を考えてくれ、ダンスとか演劇を使ってやって行くことを考えています。

舞台芸術はその力がある。子どもたちの育成にはもちろん、高齢者の方にも障害者の方にも。舞台芸術の役割があるんですけど、街を面白くしていくツールでもある。劇場としては、作られてきたツールを、いい形のものにしてどう提供していくのか、人に街に落としていくのかが一つの仕事だと思います。そういうことを意識してやっていってください、とスタッフにはずーっと言い続けています。それがやっと実ってきたかな。

 

水上 形になってきているということですね。そういう活動が観客のすそ野を広げているんですね。かつては「鉄の街」。そこから次の時代に移ってきている北九州市。劇場の企画によって活力が生まれる。そんな手ごたえはありますか?

津村 手ごたえですか、抽象的な印象でいうと、初めて来た13年前に比べると、笑顔の人が多くなりましたね。街が明るくなったかな、そういう感じは見受けます。「なんか面白そうなことやっているな。何かわからんけど、最近有名人がよく歩いているな。」そういうことが起爆剤になっていけばいいのかな。

 

<クリエイティブ産業が生まれる町に>

津村 一方、仕掛けているんですが、手ごたえがないのは、新しい産業が生まれてきてないことです。第2次産業の衰退してきた中で次の産業は、クリエイティブなサービス産業があると思うんです。特に北九州は物を作ることを知っている町なので、クリエイティブな産業は理解できるはずです。そこに若い人達のクリエイティブな発想を持った産業というものが作れるはずです。そこが10年経ってもまだ出てきていない。ジレンマは感じているんですね。本当ならもっと勇気をもって若い人たちが起業していく。ただ3年くらい前から、魚町銀天街にリノベーションで、若い作家の人たちが集まってきてます。彼らが起爆剤になって劇場と一緒に何かできることを考えましょうと言っています。

水上 劇場だけで考えられることではないですしね。

 ところで、毎年開催されていますが、先日(216日)の「山海塾」の公演、ほぼ満席でしたね。

津村 増えましたよね(笑)

 

<お客様の目が肥えてきたー俳優からの声>

水上 観客と舞台との関係がすごく良くて、終わった後の拍手も暖かい。山海塾のステージって、観客の想像力が求められる、いわゆるハードルは高いですよね。その作品を受け入れて楽しむことのできる人たちがあれだけ集まっている。凄いことじゃないかと思っています。

津村 増えてきましたね、そういう人が。手ごたえを感じます。お客様のことを言うと、凄く目が肥えてこられました。それはわかります。

俳優側からも言われてます。この10年間、大ホールや中劇場に来られる俳優たちから、「いやー、どんどんどんどん目が肥えてきてますよね」っていうことは言われます。何かっていうと、ウケる瞬間の反応が昔に比べて全然変わりました。(笑)ちゃんとウケるところは大阪以上にウケてくれるし。自分たちも手ごたえのある作品の時は凄いカーテンコールをやっていただける。そうでもないときは2回くらいで終わってしまう。(笑)

そこは、ヨイショしてやってないことは凄く良く分かる。お客様の成長って言ったら失礼ですが、見る目が随分変わりましたね、という意見を俳優の人たちからよく聞きます。

舞台に立っている俳優の声なので、正直な手ごたえとして感じます。

 

水上 劇場文化ということでは、とても大事なことだと思います。客席に座って拝見していると、周りに座っているお客さん達の話していることが耳に入ってきます。この劇場で公演される作品への安心感、劇場が企画し紹介している作品への信頼といったことを感じます。また、以前の公演と比較して今度の公演はどうだろう?という期待感のようなものを感じます。そういったことが、繰り返し劇場に足を運びたくなる動機なのかなあ。

お客が来ないと寂しいですし、「劇場に客が付いている」と言っていいんでしょうか。

津村 それは感じます。

水上 私なんか、いつも福岡から来ますが、新幹線で16分。新大阪から新神戸くらいの時間でしょうか?そのくらい近いですよね。でも、こっちに住んでいる人にとっては、そうとう遠いんですよね。

津村 それはね、最初さんざん言われました。(笑)

水上 だいぶ近くなったんじゃないかという気がします。

津村 作品にもよりますが、福岡からのお客様の比率が増えました。後は、大分、広島のお客様が増えましたね。九州新幹線というのは凄いなと思いますけど、熊本、鹿児島のお客様が増えましたね。熊本まで1時間です。北九州以外の率が全体的に増えた。圧倒的に増えたのは福岡の方です。

水上 そうなんですか。

津村 広島のお客様が新幹線代払っても見やすい劇場で観たい。大きなホールで見るよりも、しっかり観たい。そういう意味でお客様の目が肥えたんだと思います。お芝居って面白いよね。自分が困ったときとか精神的に弱った時にいつでも手が届くところに劇場がある。そこに作品が並べられているということは、大きなことを言いますが、きっと自殺者をも減らす。ちっちゃな要素かもわからないけれども一つの要素だと思っています。それが芸術であり文化だと思います。

だから、いつでも手が届くところに芸術というものがある街にしていかないといけないと思います。民間でも公共でも構わないと思いますが、北九州が民間では成り立たないのであれば、公共がやるべきだと思います。

水上 とても羨ましいですね。

 

<アーティスト イン レジデンス>

水上 北九州のいいところは何だと考えますか?どういうメリットがあるでしょう。

津村 地方のメリットとして、劇場の体力は必要ですが、いろんな作品をバランスよくやれることは大きなメリットです。

もうひとつは、これから進めていこうと思っているんですが、アーティストインレジデンスをするためにはすごくいい街だと思います。作品を創っていくために、アーティストがここで活動するにはいいところだと思います。

ただ、地元のアーティストが育っていくためには、サービス業の少なさは課題ではあります。彼ら霞を食って生きているわけではないので、仕事をしないといけない。

水上 生活基盤が要りますからね。

津村 そこの基盤を保証するサービス産業、クリエイティブ産業的なものが弱い都市産業構造になっていると思います。だから、僕らが作っていかないといけないと思っています。

水上 その課題は、次の課題ですね。大きな課題ですけど。地域としてのいいところはありますか。

津村 いわゆる「どこかで見た景色だな、ミニ東京じゃん」みたいなことが全くない。お客様がちゃんと来て、しっかりと舞台を観てくれる。安いお金で美味しいものが食べれるということで、ほとんどの役者さんが行きたいと行ってくれます。よかったんじゃないかな。

 

<これからの北九州芸術劇場>

水上 べたな言い方ですけど、第二の故郷?のような愛着はできましたか。

津村 もちろんあります。1年に半分以上は北九州で暮らす生活が約12年間も過ぎました。本当に住みやすいいいところだと感じています。ただ、劇場に関しては、世代交代をやらないといけない時期に来たなという思いがあります。劇場プロデュースは20年やっては駄目です。そして人は育ってきました。どういうタイミングで引き継ぐか。僕らの世代が考えていかないといけない、そういう時期にきたと思っています。

僕は28歳で初めて大阪で劇場を任された。公共ホールを任されたのが33歳です。そういう年齢のスタッフは北九州にもたくさんいます。ただ、僕らがいますから、そういう年齢の人で大丈夫ですかって言われますけど、僕らは大丈夫だったんですよ(笑)

大丈夫だから、バトンタッチしていかないといけませんね。

僕らが年齢的な引き際になるとその人たちは40代になる。それでは遅いです。

失敗を3年くらい繰り返してプロデューサーになっていくわけですから、のりしろの部分を見とってあげないと、そのためには30代にバトンタッチをしないとダメだと思います。

 

<次の時代のことを考えないといけない>

津村 僕らは公共ホールの第1世代なのです。どう抜けていくかという時期。同じように仕事をしてきた人の中で還暦を超える人も出てきました。「そろそろだよね。」っていう話をしています。

この劇場のスタッフはいい人たちばかりです。課題はいっぱいありますよ。でも総合的に見て、すごくいい劇場、表現者が安心して公演を打てるし、貸し館の人も安心して舞台を使う。客観的に見ても、いい劇場になったなぁと思います。劇場を使う人、見る人の両方からの声を聞いてもそう言っていただけるので。

水上 ハードもソフトも含めて良いということでしょうね。展望を一言お願いしていいですか。これからの構想を。

 

<地域と向き合う10年に>

津村 今までは、全国的なポジションとしてどう成立させていくのか、地域を見ながら進めてきました。国内外の素晴らしいアーティストの人たちがこの劇場に来てくれるようになりました。そのことで劇場としての成立はしたと思います。全国的に。

これから先の10年は、これまで行ってきたことを継続またレベルアップしながら続けることはもちろんのこと、それと併せて地域の伝統芸能や、地域で継承されてきたものとどう向き合っていくか、ということですね。いわば地域の記憶と新しい共感を共有していく作業を次の10年間に行う。全国に発信する10年間はやれたと思っています。次は地域とどう向き合って地域の劇場として成立させていくのかということをやる10年間になります。

そうして、20年目に理想的な公共劇場が生まれると思っています。

地方の公共劇場として、理想的なバランスが取れた、「これが公共劇場の役割なんです」ということがいえる劇場づくりを目指していくつもりです。

 

水上 地域にあるからこそ、存在意義がある。

津村 その地域にどういう意味で存在しているか、言葉で言えないとだめです。理想論は言えるけど、なかなかそうはならない。次の10年をきちんとできれば、言葉として、市民の方々に実績をもとにお伝えできると思います。

そこで何を生むかというのは、後は役所の仕事です。

そのことが20年間、劇場に投資してきた結果が生まれる時だと思っています。

 

<クリエイティブシティのモデルに>

水上 クエイティブシティということが世界的に言われています。そういうことを起こしながら地域産業が生まれていく。日本にとってもこれからの領域ですね。

津村 ここは、ヨーロッパ型概念のクリエイティブシティで、日本で一番モデルになる地域ですよ。ヨーロッパ型はほとんど2次産業がダメになってアートを核に街を再生したわけですから。

北九州がちゃんとできれば、明らかにヨーロッパを手本とした日本型のクリエイティブシティが作れるはずです。

ところが、創造都市のことをよくわかっとらんかったのです(笑)。話したら、「詳しく意味を知らなかった」と言われましたから(笑)。

 

水上 最初にお聞きした、扇町でやられたこととクリエイティブシティのこと、とても共通していますね。

津村 たまたまやりたいなと思ったことだったんですけど、2030年経つ中で、リノベーションも含めて、「時代が来たな」という気がしています。

大阪ガスは、扇町ミュージアムスクエアのツールをそうとう利用しました。民間企業ですから、投資した分の何十倍も返る位の利用をしたんじゃあないでしょうかねぇ()

 

<納税者にお返しする計画を>

水上 行政も劇場に税金を投入されていますからね。

津村 劇場や美術館などで生まれてきたモノをツールに変換し、どう上手に地域に使っていくのか、というのは役所のマネージメントです。

税金をお預かりして、投資するんだったら。何年先になるか分からないけれども、必ず見返り、いわゆるアウトカムがあるっていう風にしていかないとダメだと思いますね。

トータルとして、投資した分をどういう形と内容で、納税者にお返しするかの計画を立てないといけないと思います。

 

水上 それでは、これからの北九州芸術劇場に注目していきたいと思います。ありがとうございました。

津村 ありがとうございました。

 

津村さんとの話は1時間40分にもおよびました。とても興味深いお話で、時間を忘れる程でした。予定枚数を超えるページ数になりましたが、全文ご紹介しました。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

『NODAマップ』の話題作や世界的な演出家ピーター・ブルックの作品など、九州で唯一の招聘を行いながら、オリジナル作品のプロデュースも継続的に行っている。「北九州芸術劇場のブランド化」の10年でスタッフ力を蓄積してきた自負を感じました。同時に、これからの10年を見据えて、公共ホールの理想の姿を描いているところに、頼もしさを覚えました。1回目でご紹介した「扇町ミュージックスクエア」を企画したやんちゃでしたたかな若者の顔も垣間見えました。

九州で全国に通用するレベルの演劇を制作するためには、やはり、東京の人材やノウハウが必要だし、それをコーディネイトするプロデューサーの力が必要、ということを改めて感じさせてくれました。自分たちの世代で何を残し、次の世代に何を渡していくのか、先を見通す力も必要だな、と感じたインタビューでした。津村さん、ますますご活躍を。

取材:水上徹也(シアターネットプロジェクト代表)

2014.04.07

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